双極症では人の気持ちが分からなくなる?双極I型・II型の違いと人間関係の難しさ
2026/09/23
双極症では人の気持ちが分からなくなる?双極I型・II型の違いと人間関係の難しさ
心理カウンセリングで双極症の方のお話を伺っていると、気分の波だけではなく、人間関係について悩まれていることがあります。
具体的には、「相手が怒っているように感じてしまう」「後から考えると、相手の言葉を悪い意味に取りすぎていた」「調子が悪いと、人と話すこと自体が難しくなる」といった問題です。
これだけを見ると、「双極症になると人の気持ちが分からなくなる」と思われる方もおられるでしょう。
また、少し別の視点ですが、双極I型とII型について、「I型は躁が強く、II型は躁が軽いだけ」と理解されることがあります。
しかし、どちらも少し単純化しすぎています。
Zhangら(2025)は、双極I型とII型の社会的認知、つまり人間関係の困難さを比較した研究をまとめました。
その結果、相手の気持ちや意図を推測する力や、表情から感情を読み取る力については、I型とII型で明確な差は確認されませんでした。
一方、出来事の原因をどのように意味づけるかという「帰属」ではII型にやや強い困難が示され、感情認知についてはI型・II型という診断以上に、精神病症状の既往が関係する可能性が示されました。
つまり、「双極症だから人の気持ちが分からない」「II型だから軽い」と考えるのではなく、その人が対人場面のどの部分で難しさを感じているのかを個別に見ることが大切になってきます。
そこで今回は、まず双極症の方が抱える人間関係の困難さを踏まえつつ、双極症Ⅰ型とⅡ型の違いについてシェアしたいと思います。
1.そもそも「社会的認知」とは?
社会的認知とは、簡単にいえば、人との関係を理解するために使う認知機能です。
例えば、相手の表情から「悲しそうだ」と読み取ることや、「今の言い方にはどんな意図があったのだろう」と考えること、そして「なぜ相手はあんな態度を取ったのだろう」と原因を推測することといった働きが社会的認知です。
Zhangらは、その中でも主に、以下の3つを比較しています。
✔心の理論
✔感情処理
✔帰属
2.「人の気持ちを推測する力」はI型とII型でほぼ変わらない
「心の理論」とは、相手が何を考えているのか、何を意図しているのかを推測する力です。
例えば、「相手は本当に怒っているのか」「この発言にはどんな意図があるのか」と考える働きです。
今回のメタ分析では、双極I型とII型の間に、心の理論について明確な差は確認されませんでした。
これは重要な結果です。
少なくとも、「I型の方が相手の気持ちを理解できない」あるいは、「II型なら対人理解には問題がない」とは言えないということです。
また、これは「双極症では心の理論に問題がない」という意味でもありません。
以前のメタ分析では、双極症全体を対照群と比較すると、心の理論・感情認知・社会的判断などに平均的な違いが報告されています。
これは、双極症の方の場合、それがⅠ型であろうがⅡ型であろうが、相手の気持ちを理解することに一定の難しさが生じやすいということを意味しています。
そして今回分かったのは、その違いをI型かII型かだけでは説明しにくいということです。
3.表情から感情を読み取る力にも大きな差はない
次に「感情処理」です。
感情処理とは、相手の表情や声などから感情を読み取り、その感情がどのような状態を表しているのかを理解する働きです。
これは「この人は怒っている」「悲しそうだ」「嬉しそうだ」と、表情などから感情を読み取る能力です。
この感情処理は先述した心の理論と重なって見えるかもしれません。
この両者は、以下のように区別すると分かりやすいと思います
✔「なぜ怒っているのか」「自分に怒っているのか」を推測する → 心の理論
✔表情を見て「怒っている」と分かる → 感情処理
さて本題に戻りますと、感情処理については精神病症状の既往がない人に限定すると、ここでも双極I型とII型には明確な差が確認されませんでした。
したがって、「I型の方が人の表情を読み取れない」とは単純に言えないことが分かります。
一方で、研究によっては特定の感情、たとえば悲しみの表情などで違いが報告されています。
大切なのは、「人の表情が読めるか、読めないか」という二択ではなく、どのような状況や感情で読み違いが起こりやすいのかを見ることです。
4.I型・II型より「精神病症状の既往」が重要な場合があります
この研究で特に興味深いのが、過去に精神病症状を経験しているかどうかです。
精神病症状とは、現実とのつながりが一時的に弱くなり、実際にはないものが見えたり聞こえたりする幻覚や、事実とは異なる確信を強く持つ妄想などが現れる状態を指します。
双極症では、特に重い躁状態や抑うつ状態の際にみられることがあります。
研究をまとめると、精神病症状の既往がある場合には、感情処理の成績が低くなる傾向がありました。
研究者らの分析でも、精神病症状の既往は感情処理能力の低下と関連していました。
つまり社会的認知を考える場合、「I型ですか、II型ですか」だけでは不十分で、「これまでどのような症状があったのか」「現在どの程度気分が安定しているのか」「認知機能や注意力の状態はどうか」といった要因も考える必要があります。
5.I型とII型で違いがみられたのは「帰属」
今回の研究で比較的はっきりした違いが出たのが、「帰属」です。
帰属とは、「なぜその出来事が起きたのか」と原因を考える働きを指します。
例えば、パートナーから数時間返信がないとします。
この場合、確認できる事実は、「返信がない」というところまでですよね。
しかし、そこから私たちは、その事実の原因を考え始めます。
例えば、「忙しいのかもしれない」「忘れているのかもしれない」「自分に怒っているのかもしれない」「自分のことが嫌いになったのかもしれない」というものです。
これが帰属です。
Zhangらの分析では、この領域については、双極II型の方がI型より困難がやや強いという結果でした。
ただし、この結果は慎重に考える必要があります。
つまり、「II型の人は人の言動をネガティブに考えやすい」「対人関係を誤解しやすい」とまで一般化するのは不適切です。
なぜなら、帰属を扱った研究は3研究と少なく、内容も完全には統一されていないからです。
しかし、Zhangら(2025)のメタ分析では、双極II型はI型と比較して、「帰属」の領域でやや強い困難・偏りを示す傾向が小~中程度見られたことは、見落とすべきではないでしょう。
6.双極II型は単純に「躁が軽い双極症」ではない
ここで双極I型とII型の違いを整理しておきます。
I型では躁病エピソードがみられます。
II型では躁病エピソードではなく軽躁病エピソードがあり、さらに大うつ病エピソードを経験します。
この違いだけを見ると、「II型はI型を軽くしたもの」と思われやすいかもしれません。
しかし、疾患全体の負担をそのように考えることはできません。
Zhangらの論文でも、II型では抑うつエピソードが長く続くことや、罪悪感などの抑うつ症状が強くみられることがあると整理されています。
つまり、軽躁が躁病より軽いことと、双極II型という病気全体が軽いことは別の話です。
今回の社会的認知の研究でも、I型がすべての領域でII型より悪いわけではなく、また先述しましたように帰属ではむしろII型にやや大きな困難が示されました。
そのため、I型・II型を「重い/軽い」という一本の物差しで考えることには無理があります。
7.「双極症だから人の気持ちが分からない」わけではない
この点は特に誤解しないでいただきたいところです。
社会的認知の研究で平均的な差が出ているからといって、「双極症の人には共感性がない・人の気持ちが分からない」という意味ではありません。
研究で測定しているのは、心理検査上の平均的な成績であり、全ての双極症の方が同じ特徴を持っているわけではありません。
また、「相手の表情を読むこと」「相手の気持ちを推測すること」「人の痛みに共感すること」「出来事の原因をどう考えるか」は、それぞれ別の心理機能です。
これらを全部まとめて、「人の気持ちが分からない」と表現すると、必要以上に大きな問題のように聞こえてしまいます。
しかし双極症の方が対人関係で困難さを抱えやすいということは踏まえておく必要があるでしょう。
8.気分が安定していても、対人関係の困難が残ることも
双極症では、躁・軽躁・抑うつといった明らかな気分症状が落ち着いても、「職場の人とうまく付き合えない」「相手の言葉を悪く受け取ってしまう」「対人関係で疲れやすい」という問題が残る場合があります。
以前のメタ分析でも、双極症では寛解期を含めて社会的認知上の違いが報告されています。
ただし、症状が安定している人すべてに問題が残るわけではありません。
そのためカウンセリングでは、「双極症だから」と考えるのではなく、具体的にどの場面で何が起こっているのかを確認することが求められます。
9.「事実」と「自分の解釈」を分けてみる
社会的認知という視点から、双極症の方が対人関係で役立つことの一つが、「事実と解釈を分けること」です。
例えば「職場の同僚に挨拶したが返事がなかった」という出来事があったとします。
まず確認できるのは、「返事が聞こえなかった」という事実のところまでです。
そこから、無視されたという解釈に飛び、さらに相手の心についての推測として「自分のことを嫌っている」
へ進んでいるかもしれません。
このとき、「それは考えすぎ」と否定する必要はありません。
それよりも…
✔「実際に確認できるのはどこまでか?」
✔「ほかにはどんな理由が考えられるか?」
✔「相手がそう考えていると確実に言えるか?」
…というように、一つずつ整理することが役に立ちます。
大切なのは、最初に浮かんだ解釈を、すぐ事実として確定しないことです。
10.双極症の対人関係は診断名だけでは説明できない
Zhangら(2025)の研究から分かるのは、双極I型とII型の社会的認知には、思っているほど単純な違いがないということです。
心の理論と感情処理では、I型・II型に明確な差はありませんでした。
一方、出来事をどのように意味づけるかという帰属ではII型にやや強い困難がみられ、感情処理については精神病症状の既往も重要な要因でした。
そのため、「私は双極II型だから人間関係が苦手なんだ」「双極I型だから人の気持ちを理解できないんだ」と考えることは妥当ではありません。
それよりも、「どのような状況になると、相手の言葉や表情を読み違えやすいのか」「事実からどのような解釈へ進みやすいのか」を具体的に知ることの方が役立ちます。
つまり診断名を自分自身の説明にしてしまうのではなく、自分の中で起きている具体的な認知のパターンを理解することが、対人関係を整えていく一つの手がかりになると私は考えています。
よくある質問
Q1.双極症になってから、人の表情を悪い意味に受け取ることが増えた気がします。病気の影響でしょうか?
影響している可能性はありますが、それだけでは判断できません。
現在の抑うつや不安、睡眠不足、注意力の低下などでも、人の表情や言葉をネガティブに受け取りやすくなることがあります。
そのため、「いつから」「どのような気分状態のときに増えるか」を確認すると手がかりになります。
Q2.双極II型と言われました。I型より軽い病気だと考えてよいのでしょうか?
単純にそうとは言えません。
II型では躁病ではなく軽躁病がみられますが、それは病気全体が軽いという意味ではありません。
実際、抑うつ症状が大きな負担になる方も珍しくありません。
そのため、I型・II型は「重い/軽い」よりも、症状の現れ方が異なると理解する方が適切です。
Q3.相手が怒っているように感じるとき、「自分の思い込みだ」と考えた方がよいのでしょうか?
最初から思い込みと決める必要はありません。
まずは「怒っている」と判断した根拠と、実際に確認できている事実を分けて考えてみてください。
相手が本当に怒っている場合もあれば、別の理由がある場合もあります。
そのため、「まだ分からない」と保留できることが大切です。
Q4.症状が落ち着いているのに、人間関係だけうまくいきません。これはおかしいのでしょうか?
おかしいことではありません。
気分症状が改善しても、対人関係のパターンや認知上の困難が残ることはあります。
そのため、心理カウンセリング等で何がうまくいかないのかを具体的に分析することで改善される見込みがあります。
Q5.人の気持ちを読み違えないようにする練習はできますか?
できます。
ただし「正しく心を読む」ことよりも、「自分の推測を事実と決めつけない」ことが重要です。
出来事、そこから自分が考えたこと、相手について推測したことを分け、別の可能性も検討する練習が役立つ場合があります。
参考文献
----------------------------------------------------------------------
こころのケア心理カウンセリングRoom
兵庫県芦屋市浜芦屋町1-27 サニーコート浜芦屋302号
電話番号 : 090-5978-1871
----------------------------------------------------------------------
この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
プロフィールはこちら


