感情をうまく扱えないのは心の病気に共通する?精神疾患と感情調節の関係
2026/10/09
感情をうまく扱えないのは心の病気に共通する?精神疾患と感情調節の関係
こころの病を抱えている方の多くは、自信が抱えておられる感情による苦しみを抱えておられます。
こうした状態が続くと、「自分はネガティブ思考が強いのではないか」「もっと感情をコントロールできる人にならなければ」と考えてしまうかもしれません。
しかし、Clamor, Lincoln & Schulze(2026)が行った大規模な系統的レビューとメタ分析では、感情をうまく扱うことの難しさは、特定の精神疾患だけではなく、多くの精神疾患に共通してみられる問題であることが示されました。
さらに重要なのは、すべての疾患で同じ問題が起こるわけではないという点です。
つまり研究では、うつ病では反すう、不安症では回避というように、共通する感情調節の問題と、疾患ごとに目立つ問題の両方があることが分かってきました。
つまり、心の不調を考えるときには、診断名だけではなく、「つらい感情が出たとき、その人は何をしているのかを見ることがとても重要なのです。
そこで今回は、こころの病と感情の問題についてシェアしたいと思います。
1:そもそも「感情調節」とは何か
感情調節というと、「怒らないようにすること」「不安を抑えること」のように思われるかもしれません。
しかし、心理学でいう感情調節はもっと広い概念です。
例えば、以下の要素も感情調節に含まれてきます。
✔悲しいときに、その気持ちを受け止める。
✔不安になったときに、状況を別の角度から考える。
✔問題が解決できるなら、具体的に対応する。
✔強い感情があっても、それに振り回されず必要な行動を選ぶ。
そこでClamorらは、感情を受け入れる受容、現実的に対応する問題解決、出来事の捉え方を変える認知的再評価、つらいことから離れる回避、同じことを繰り返し考える反すう、感情を表に出さないようにする表出抑制などを調べました。
つまり感情調節とは、感情を消すことではなく、「感情が生じたとき、それとどう付き合うか」と考えると分かりやすいでしょう。
2:精神疾患がある人では、感情調節全般の困難が大きかった
この研究では、非常に多くの研究をまとめて、精神疾患のある人とそうでない人を比較しています。
その結果、最もはっきりしていたのは、「精神疾患のある人では、全体として感情調節の困難がかなり大きい」ということでした。
これは感情が生じたときに、「受け止める・整理する・別の見方を考える・必要なら問題を解決する」といった複数の方法を柔軟に使うことが難しくなっている、という意味です。
3:特に目立ったのは「反すう(ぐるぐる思考)」だった
具体的な方法の中で、特に大きな違いがみられたのが反すう(ぐるぐる思考)です。
反すうとは、「どうしてあんなことをしたのだろう」「なぜ自分はこんな人間なのだろう」「あのとき別の行動をしていれば」と、同じことを何度も考え続けることです。
ここで大切なのは、「考えること自体が悪いわけではない」ということです。
問題を整理し、結論を出し、次の行動につながるのであれば、それは役立つ思考です。
一方で、同じ問いを何度考えても答えが増えず、気分だけが悪くなり、行動にもつながらないという状態になると、反すうが苦痛を長引かせる危険性が高まってしまいます。
今回の研究では、この反すうの多さが、多くの精神疾患に共通してみられました。
感情調節における「診断横断的」とは?
この論文では、感情調節の問題を診断横断的なものとして捉えています。
診断横断的という言葉は少し分かりにくいですが、簡単にいうと、「一つの病気だけにみられるのではなく、いくつもの異なる精神疾患に共通してみられる」という意味です。
たとえば、反すうはうつ病だけにみられるわけではなく、不安症や他の精神疾患でも起こります。
同じように、「感情を強く抑える・出来事を別の角度から捉えにくい」といった問題も、特定の診断だけに限定されません。
今回の研究では、特に、「反すうが多いこと・感情表出を抑えやすいこと・認知的再評価を使いにくいこと」などが、複数の疾患に共通する傾向として確認されました。
そのため、「私はうつ病だからこうなる」だけではなく、「心の不調があるときに共通して起こりやすい感情との付き合い方がある」と考えることができるでしょう。
4:ただし、疾患ごとの特徴も
一方で、すべての精神疾患が同じ感情調節の問題を持っているわけではありませんでした。
たとえば、うつ病では反すうが特に目立ちました。
実際に何度も同じ失敗や自分の欠点を考え続けることは、抑うつ状態ではよくみられます。
一方、不安症では回避が比較的目立ちました。
不安になる場所へ行かない、失敗しそうなことをしない、不安を感じる会話を避ける、といった行動は短期的には楽になりますが、長期的には「避けなければならない」という感覚を強める危険性が増してしまくぃます。
また、パーソナリティ症では、感情調節全般の困難や感情を受け入れることの難しさが目立ちました。
つまり、「多くの疾患に共通する部分はあるけれど、どこが特に難しくなるかは疾患によって違う」ということなんですね。
5:受容・問題解決・回避は、疾患によって違いが大きかった
興味深いことに、すべての感情調節方略が同じように多くの疾患に共通していたわけではありません。
特に、「感情をそのまま認める受容・現実的な問題に対応する問題解決・つらい状況から離れる回避」については、疾患によって違いが比較的大きくみられました。
つまり、「精神疾患がある人はみんな感情を受け入れられない」「みんな回避する」と一括りにすることはできません。
これはケアにおいてきわめて重要です。
診断名だけを見て、「この人にはこの方法が必要だろう」と決めるのではなく、その人自身が感情に対してどのような対応をしているのかを確認する必要がある、ということなんですね。
6:症状が良くなると、感情調節の状態も良くなる傾向が表れる
この研究では、現在症状がある人だけでなく、症状が落ち着いている人についても検討しています。
その結果、症状が落ち着いている人では、感情調節全般の困難が少なく、反すうや感情の抑え込みも少ない傾向がみられました。
一方で、症状が改善していても、精神疾患を経験していない人と比べると、一部の感情調節の違いは残っていました。
ここからは、「感情調節の問題には、症状とともに変化する部分と、比較的残りやすい部分の両方がある可能性」が考えられます。
加えて症状が強いほど、感情調節の困難も大きい傾向がありました。
さらに、症状が重い人ほど、「感情調節全般の困難や反すう、感情の抑え込み」などが強い傾向もみられました。
つまり、診断名だけではなく、「今どのくらいつらい状態なのか」も感情調節と関係している可能性があります。
そのため、「うつ病だから反すうする」という単純な説明より、「今、抑うつが強くなっているから、考えを切り替えにくくなっているのかもしれない」と考える方が実際の支援には役立ちます。
7:「感情を抑えてはいけない」ということではない
この研究を読んで、「感情を抑えることは悪いことなんだ」と思うのは妥当ではありません。
例えばば、仕事中に強い怒りが出たとき、そのまま相手にぶつけるより、一度抑える方が適切な場合があります。
これは回避についても同じです。
危険な場所から離れる、疲れたときに刺激の多い場所を避けるという行動は問題ではありません。
重要なのは、「その方法をいつでも同じように使い続けていないか」という点です。
✔怒りは必ず抑える。
✔不安になることは必ず避ける。
✔嫌なことは必ず考え続ける。
…というように、感情に対する対応が一つしかなくなると、かえって生活の幅が狭くなることがあります。
そのため大切なのは、「状況に応じて感情との付き合い方を変えられる柔軟さ」です。
8:カウンセリングでは「何を感じるか」だけでなく「何をしているか」を見る
今回の研究は、心理カウンセリングにとって重要な示唆があります。
例えば「不安があります」という訴えがあったとします。
そこで、「なぜ不安なのか」だけを見るのではなく、「不安になったとき、何をしていますか」と尋ねます。
その結果…
✔避けているのか。
✔何度も考えているのか。
✔感情を抑え込んでいるのか。
✔別の見方を考えているのか。
✔誰かに相談しているのか。
✔問題を解決しようとしているのか。
この違いによって、支援方法も変わります。
同じ不安でも、回避が中心ならエクスポージャーが役立つことがあります。
反すうが中心なら、考え続けるパターンから離れる支援が必要かもしれません。
感情そのものを否定しているなら、受容や感情理解を扱うことがあります。
つまり、診断名だけではなく、感情が出たときの「対応の仕方」を見ることが大切ですね。
9:この論文から最も大切にしたいこと
Clamorら(2026)の研究が示している重要な点は、感情調節の困難は、ある一つの精神疾患だけに特有の問題ではないということです。
うつ病、不安症、強迫症、パーソナリティ症など診断名が違っても、「反すうする・感情を抑え込む・別の見方がしにくくなる」といった共通するパターンがあります。
一方で、どの部分が特に問題になりやすいかは疾患によって異なります。
そのため、「私は何の病気なのか」だけでなく、「つらい感情が出たとき、自分は何をしているのか」を知ることが大切になります。
感情があること自体が問題なのではありません。
不安も、悲しみも、怒りも、人間に必要な感情です。
ケアの臨床では、それらをなくすことだけを目指すのではなく、感情があっても、その場面に合った方法を選べるようになることを一緒に考えていくことになります。
つまり「感情をコントロールできる人になる」というより、「感情との付き合い方を増やしていく」と考える方が、感情調節において大切だと言えるでしょう。
よくある質問
Q1.考え込むことが多いのですが、すべて反すうなのでしょうか?
いいえ。
考えることで問題が整理され、結論や具体的な行動につながっているなら、必ずしも反すうではありません。
しかし同じことを何度考えても答えが増えず、気分だけが悪化している場合には、反すうになっていないか確認する価値があります。
Q2.嫌なことから離れるのは、やはり良くないのでしょうか?
離れること自体が悪いわけではありません。
疲れているときに休む、危険な状況から離れることは必要です。
ただし、不安になることを毎回避けることで生活範囲が狭くなっている場合には、回避が問題を維持している可能性があります。
Q3.感情を表に出すのが苦手です。無理に人に話した方がよいですか?
必ずしもそうではありません。
感情を誰にでも表現する必要はありません。
大切なのは、表現するか抑えるかを状況に応じて選べることです。
いつも抑えるしかない状態になっている場合には、その理由を一緒に考える価値があります。
Q4.症状が改善すれば、感情の扱い方も自然に良くなりますか?
改善する部分はあります。
ただし、症状が落ち着いても、反すうや感情の抑え込みなどの習慣が残ることがあります。
その場合には、再発予防の意味でも感情との付き合い方を見直すことが大切です。
Q5.自分にどの感情調節の問題があるのか、どうすれば分かりますか?
「つらい感情が出た直後に自分が何をするか」を観察すると分かりやすくなります。
何度も考える、避ける、我慢する、人に確認する、問題解決をするなど、自分の行動を整理するとパターンが見えてきます。
その点を踏まえた上でカウンセリングでは、どの方法が役立ち、どの方法が苦痛を長引かせているのかを一緒に検討できます。
参考文献
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こころのケア心理カウンセリングRoom
兵庫県芦屋市浜芦屋町1-27 サニーコート浜芦屋302号
電話番号 : 090-5978-1871
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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