精神疾患と感情との関係~神戸、芦屋、西宮のカウンセリングより~

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心の病に共通しているのは「つらい感情」ではない?感情との付き合い方を研究から考える

心の病に共通しているのは「つらい感情」ではない?感情との付き合い方を研究から考える

2026/10/16

心の病に共通しているのは「つらい感情」ではない?感情との付き合い方を研究から考える

うつ病や不安症、適応障害等の心の病や障害の多くはつらい感情が大きな問題となります。

 

そして、つらい感情が続けば「この感情そのものをなんとかしなければ!」と思うのも自然なことです。

 

しかし、近年の研究から見えてきているのは、少し違う可能性です。

 

Clamorら(2026)は、精神疾患と感情調節について多数の研究をまとめて検討しました。

 

その結果、多くの心の病に共通していたのは、単に不安や悲しみを感じることではなく、反すうを続ける、感情を抑え込む、別の見方を使いにくいといった「感情との付き合い方」の問題でした。

 

つまり、心の病に共通しているのは「つらい感情」そのものではなく、「つらい感情が出たときにどう対処しているか」ということも重要である、ということです。

 

つまり「つらい感情が出た時に、どのように感情調節をしているか」ということなんですね。

 

これは、心理カウンセリングを考えるうえでも非常に重要な視点です。

 

そこで、このブログでは心の病とつらい感情との関係や向き合い方についてシェアしたいと思います。

 

1:そもそも感情調節とは?

 

この研究の中心となる言葉が、「感情調節」です。

 

感情調節というと、「怒らないようにする」「不安を抑える」「悲しまないようにする」といったイメージを持つかもしれません。

 

しかし、感情調節はもっと広いものです。

 

簡単に言えば、「不安、悲しみ、怒りなどが出てきたときに、その感情をどう受け止め、どう考え、どのように行動するか」ということです。

 

たとえば、仕事で失敗したとします。

 

そのとき、次のような方法を取ることが考えられます。

 

✔「自分は駄目だ」と何時間も考え続ける。

✔失敗しそうな仕事を今後すべて避ける。

✔落ち込んでいることを誰にも知られないように抑え込む。

✔「今回の失敗から何を修正できるか」と考える。

 

このように、同じ出来事でも、その後の感情との付き合い方はかなり違ってきます。

 

Clamorらは、こうした違いを複数の感情調節方略に分けて検討しました。

 

2:心の病では「感情調節全般」の困難がかなり大きかった

 

研究では、心の病のある成人とそうでない方を比較しました。

 

その結果、心の病のある方(精神疾患群)では、感情を理解したり、受け止めたり、行動を整えたりする感情調節全般の困難がかなり大きいことが示されました。

 

ただし、「精神疾患がある人は感情をコントロールできない」という意味ではありません。

 

これはあくまで、多くの人を集団として比較したときの平均的な傾向である点は注意が必要です。

 

そして問題は「つらい感情が強いこと」だけではありませんでした。

 

それよりも重要なのは、「感情が出たあと、その感情にどう反応するか」と言うことにありました。

 

3:最も目立ったのは「反すう」

 

具体的な感情調節方略の中で、心の病のない人との差が特に大きかったのが反すう(ぐるぐる思考)でした。

 

ここで言う反すうとは、「なぜあんなことをしてしまったのだろう」「どうして自分はこうなのだろう」「あのとき別の行動をしていれば」と、同じ出来事について何度も考え続けることです。

 

ただ、ここで大切なのは、「考えること自体が悪いわけではない」という点です。

 

問題は、その「考えること」が役に立っているかどうか、と言うことです。

 

例えば「失敗した原因は準備不足だった。次は前日に確認しよう」と考えて行動につながるなら、それは問題解決です。

 

一方、「どうして失敗したんだろう」→「やっぱり自分は駄目だ」→「なぜ自分はいつもこうなんだろう」と同じところを回り続けるのが反すう(ぐるぐる思考)です。

 

つまり、「たくさん考えているのに、問題解決には一向に進んでいない」というのが反すうの特徴です。

 

4:多くの心の病に共通していた4つの特徴

 

Clamorらの研究では、心の病の種類が違っても比較的一貫してみられた特徴がありました。

 

それが、「感情調節全般の困難」「反すうが多い」「感情の表出を抑えることが多い」「認知的再評価をあまり使わない」という傾向です。

 

これを診断横断的といいます。

 

診断横断的と言うのは、「うつ病だけ」「不安症だけ」「強迫症だけ」に見られる問題ではなく、診断を越えて共通している可能性がある心理的なプロセスということです。

 

5:うつ病では「反すう」が特に目立つ

 

一方で、疾患ごとの特徴もありました。

 

うつ病では特に、「反すう(ぐるぐる思考の多さ」と「認知的再評価の少なさ」が目立ちました。

 

認知的再評価とは、出来事の意味を別の角度から捉え直すことです。

 

例えば、「上司に注意された」→「私は仕事ができない人間だ」と考えることも可能です。

 

しかし同時に「今回の仕事には修正すべき点があった」と考えることも可能です。

 

これは、「何でも前向きに考えましょう」ということではありません。

 

認知的再評価とは、今の考え方以外にも、現実的な見方がないか検討することです。

 

うつ病では、反すうによって一つの否定的な考えにとどまり続け、別の見方へ移りにくくなることが生じやすいということが言えるでしょう。

 

6:不安症では「回避」が大きな問題になりやすい

 

不安症で特に目立ったのが回避です。

 

プレプリント段階を含む著者らの疾患別解析では、不安症や強迫症関連で回避の差が大きいことが示されています。

 

例えば、「人前で不安になるから発表を避ける」「電車でパニックになりそうだから乗らない」「失敗するのが怖いから行動しない」というものです。

 

回避をすると、その瞬間は楽になります。

 

すると脳は、「避けたから助かった」と学習してしまいます。

 

その結果、次回も回避が生じやすくなります。

 

つまり「不安→回避→一時的に安心→『避ける必要がある』と学習→さらに不安」という循環ができやすくなってしまうんですね。

 

実際に不安症では、「不安を感じること」だけでなく、「不安が出たときに避けるという対処が症状の維持に関係する」という皮肉な結果が珍しくありません。

 

7:強迫症でも「回避」が重要になる

 

強迫症でも、回避は大切なテーマです。

 

たとえば汚染恐怖がある場合、「汚れているかもしれない場所には触らない」「公共交通機関を使わない」「他人が触った物を避ける」といった行動が増えることが多々あります。

 

これも短期的には不安を減らします。

 

しかし、「触れなければ大丈夫」という学習が強くなるため、長期的には生活範囲が狭くなる可能性が高くなってしまいます。

 

そのため強迫症では、感情調節だけでなく、強迫観念、強迫行為、不確実性、恐怖学習なども含めて理解する必要があります。

 

つまり「強迫症は感情調節の問題である」と単純化することはできないんですね。

 

8:パーソナリティ症では「感情調節全般」と「受容」

 

パーソナリティ症では、感情調節全般の困難と、感情を受容することの難しさが特に目立ちました。

 

ここでいう受容とは、「何でも我慢する」「つらいことを諦める」という意味ではありません。

 

例えば怒りが出たときに、「怒ってはいけない」「こんな感情はすぐ消さなければならない」と反応するのではなく、「今、自分は怒っている」と認識できることです。

 

そして「感情を認めること」と、「その感情のまま行動すること」は別です。

 

つまり「怒りはある。でも相手を攻撃するかどうかは選べる」という状態が重要になります。

 

9:「感情を抑えること」も多くの心の病に共通していた

 

もう一つ診断横断的だったのが、表出抑制です。

 

表出抑制とは、悲しいけれど泣かない、怒っているけれど平静を装う、不安なのに何ともないように振る舞うといった対処です。

 

もちろん、これ自体が悪いわけではありません。

 

仕事中に一時的に怒りを表に出さないことが適切な場合も当然あります。

 

問題になるのは、「どんな場面でも感情を出してはいけない」と硬直的に使い続けることです。

 

この研究では、この表出抑制も多くの精神疾患に共通して多くみられました。

 

10:大切なのは「良い方法」と「悪い方法」を決めることではない

 

ここまで読むと、「反すうは悪い」「回避は悪い」「感情を表現すればよい」と思うかもしれません。

 

しかし、感情調節はそれほど単純ではありません。

 

危険な場所を避けることは必要です。

 

怒りをそのまま相手にぶつけない方がよい場面もあります。

 

一人で考えることが役立つ場合もあります。

 

重要なのは、「その方法が今の状況で役立っているのか」

 

そして、「一つの方法しか使えなくなっていないか」という点です。

 

感情調節で大切なのは、「正しい方法」を一つ覚えることより、状況によって複数の方法を使い分けられる柔軟性だと考えられます。

 

11:ケアでは「何を感じるか」だけでなく「その後どうするか」を見る

 

心の病のケアでは、「何が悲しいですか」「何が不安ですか」と感情そのものを確認することがあります。

 

しかし、それと同じくらい重要なのが、「その感情が出たあと、いつも何をしていますか」というものです。

 

✔不安になったら避ける。

✔落ち込んだら何時間も考える。

✔怒りが出たら完全に抑え込む。

✔悲しくなったら「こんな自分は駄目だ」と責める。

 

こうしたパターンが分かれば、ケアによって変えられる部分が見えてきます。

 

12:心の病と感情との関係のまとめ

 

Clamorら(2026)の研究が示しているのは、「心の病によって感じる感情が完全に違うというより、感情への対処の仕方に共通する特徴がある」ということです。

 

不安や悲しみ、怒りは、心の病がない人にも起こります。

 

違いの一つは、「その感情が出たとき、どのように付き合っているか」ということです。

 

回復とは、「不安を感じない人になる」「悲しまない人になる」ことに限定して考えるべきではありません。

 

✔不安が出ても、すぐにすべてを避けなくなる。

✔落ち込んでも、何時間も反すうし続けなくなる。

✔怒りがあっても、自分や相手を傷つけない方法を選べる。

 

…ということも非常に重要です。

 

つまり、つらい感情があっても「『今こう感じている』と認めながら、自分に必要な行動や対処を選べる」ということが重要です。

 

感情をなくすことではなく、感情に振り回される選択肢を少し減らし、別の付き合い方を増やしていくことも、心理的な回復の重要な方向だといえるでしょう。

 

よくある質問

 

Q1.考えすぎるのですが、どこからが「反すう」なのでしょうか?

 

一つの目安は、考えた結果として新しい情報や行動が増えているかです。

 

「明日相談してみよう」と具体的な対応に進めるなら問題解決です。

 

しかし同じ問いを何度考えても結論が変わらず、自分を責める方向へ戻ってしまう場合には反すうになっている可能性があります。

 

Q2.不安なことを避けると楽になります。それでも避けない方がよいのでしょうか?

 

すべての回避が問題なのではありません。危険な状況から離れることは必要です。

 

一方、安全なのに「不安だから」という理由だけで避け続け、生活範囲が狭くなっている場合には、回避が不安を維持している可能性があります。

 

Q3.感情を受け入れると、余計につらくなりませんか?

 

最初はつらく感じることがあります。

 

しかし受容とは、強い感情に無理に飛び込むことではありません。

 

「今、不安がある」「今、悲しい」と認識しながら、必要以上に排除しようとしないことです。

 

また扱える範囲から練習していくことが大切です。

 

Q4.人に感情を見せるのが苦手です。無理に表現した方がよいのでしょうか?

 

必ずしもそうではありません。

 

感情をいつ、誰に、どの程度伝えるかは選べます。

 

問題になるのは「感情は絶対に見せてはいけない」というように、一つの方法しか選べなくなることです。

 

そのため、安全な相手に少し伝えるなど、選択肢を増やすことが重要です。

 

Q5.診断名が違っても、同じような心理療法をすることがあるのはなぜですか?

 

診断は違っても、反すう、回避、感情の抑制、受容の難しさなど、共通する心理プロセスがあるためです。

 

そのため認知行動療法(CBT)、ACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)、弁証法的認知行動療法(DBT)などでは、診断を越えて似たテーマを扱う場合があります。

 

ただし、強迫症ならERPなど、疾患ごとに特に重要な治療もあるため、すべてを同じ方法で治療するわけではありません。

 

参考文献

Clamor, A., Lincoln, T. M., & Schulze, L.(2026)
Emotion regulation in mental disorders: A systematic review and multilevel meta-analysis of transdiagnostic and disorder-specific impairments.
Psychological Bulletin, 152(2), 157–200.
DOI: 10.1037/bul0000512

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この記事の執筆者

駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)

心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。

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