自閉症スペクトラム(アスペルガー)を無意識に隠す生きづらさ~神戸、芦屋、西宮のカウンセリングより~

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「昔から人に合わせるのが癖だった」自閉症スペクトラムの方が「カモフラージュ」を身につけるまで

「昔から人に合わせるのが癖だった」自閉症スペクトラムの方が「カモフラージュ」を身につけるまで

2026/10/18

「昔から人に合わせるのが癖だった」自閉症スペクトラムの方が「カモフラージュ」を身につけるまで

「人と話すときは、いつも相手の反応を気にしてしまいます」

「学生の頃から、周りの人を見て振る舞い方に目が行っていました」

「外では普通にしているつもりですが、家に帰ると何もできないくらい疲れます」

「昔から周囲に合わせてきたので、どれが本当の自分なのか分からなくなります」

 

心理カウンセリングにおいて、このように訴える方は珍しくありません。

 

そしてその後、自閉症スペクトラム(アスペルガー)の特性があることに気づいたり、成人になってから診断につながったりする方もおられます。

 

ここで疑問になるのは、「自閉症スペクトラムだと知らなかったのに、なぜ特性を隠すような行動が身についたのだろう?」ということです。

 

このように自閉症スペクトラムの特性を隠すことを「カモフラージュ」と呼びます。

 

このカモフラージュは必ずしも、「私は自閉症スペクトラムだから、それを隠そう」と意識して始まるものではありません。

 

それよりも…

 

「なぜか自分だけ周囲とうまく合わない」→「こうすると怒られない、浮かない、仲間に入れる」→「では次からそうしよう」

 

…という経験を繰り返すことで、周囲に合わせる方法が身についていく場合がほとんどです。

 

つまりカモフラージュは、診断後に始まるものというより、「生きづらさの中で身につけた適応方法」であると言えるんですね。

 

そこでこのブログでは、自閉症スペクトラム症(アスペルガー)による生きづらさと生き残り戦略であるカモフラージュに焦点を当ててシェアしたいと思います。

 

1:そもそもカモフラージュとは?

 

自閉症スペクトラムにおけるカモフラージュとは、自分の特性や社会的な困難が周囲から分かりにくくなるよう、行動や話し方を調整することです。

 

Hullら(2017)は、カモフラージュには主に、「マスキング」と「補償」が含まれるとしています。

 

マスキングとは、自然に出る行動を隠すことです。

 

例えば、「落ち着くために体を動かしたいけれど、人前では我慢する」「音がつらいけれど、平気なふりをする」「好きなことについて話したいけれど、話しすぎないようにする」といった行動です。

 

一方、補償とは、自然には分かりにくい社会的ルールを、知識や工夫で補うことです。

 

例えば、「会話では相手にも質問する」「この場面では笑う」「初対面ではこの話題を使う」「話す内容をあらかじめ準備しておく」という方法です。

 

2:最初にあるのは「自閉症スペクトラムの自覚」ではなく「周囲とのズレ」

 

そもそも、診断を受けていない子どもが、「自分には自閉症スペクトラムの特性がある」と理解することは通常ありません。

 

むしろ最初に経験するのは、「なぜか周りと違う」という感覚だったりします。

 

具体的には、次のようなものです。

 

✔友達と同じように話しているつもりなのに、相手が困った顔をする。

✔好きな話をしていたら「その話ばかりしないで」と言われる。

✔本人には理由が分からないのに「空気を読んで」と注意される。

✔目を合わせないことで「ちゃんと聞いているの?」と言われる。

✔一人でいたいだけなのに「もっとみんなと仲良くしなさい」と言われる。

 

こうした経験が重なると、「自分の自然な振る舞いではうまくいかない」という理解につながってしまいます。

 

ここからカモフラージュが始まってしまう可能性が高いんですね。

 

3:生きづらさと、周りの人に対する「観察」

 

カモフラージュのそもそもの出発点は、「自然に振る舞うとうまくいかない」という生きづらさです。

 

では、どうすればよいのでしょうか。

 

そこで使われる方法の一つが、周囲を観察することです。

 

例えば、次のようなものが典型例です。

 

✔「人気のある人はどう話しているのだろう」

✔「みんなはいつ笑っているのだろう」

✔「どのくらい相手の目を見るのだろう」

✔「会話が止まったら何を言えばよいのだろう」

 

そして、「こういう場面では、こうすればよい」というルールを少しずつ作っていきます

 

もちろん、当事者本人にとっては「自閉症スペクトラムを隠している」という意識はありません。

 

むしろ、「人間関係で失敗しない方法を覚えている」という感覚に近いことがあります。

 

そして、そのの方法で実際に人間関係がうまくいけば、当然その方法を続けるようになります。

 

具体的には…

● 自分の好きな話をそのままする →「変わっている」と言われる

● 周囲の話題に合わせる →仲間に入れる

という経験です

 

こうした経験が続くと、「自分の話は抑えて、周囲に合わせた方がよい」と学びます。

 

また…

● 自然な動きをする →注意される

● 我慢する →何も言われない

…という経験が続けば、「人前ではこの行動を出してはいけない」ということを学びます。

 

このように、カモフラージュは社会生活の中で少しずつ学習され、長く続けるうちに半ば自動的になることが珍しくありません。

 

4:カモフラージュの根底にある「人とつながりたい」という気持ち

 

カモフラージュというと、「自分を隠す」という否定的なイメージだけを持つかもしれません。

 

しかしHullら(2017)の研究では、カモフラージュの重要な動機として、「人とつながりたい」という気持ちも報告されています。

 

友達がほしい、恋愛をしたい、仕事で人間関係を築きたい、仲間に入りたい…。

 

こうした願いを持つのは人として当然のことです。

 

そして、そうした願いがあるからこそ、そのために社会的な振る舞いを学んできた方も当然おられます。

 

そのためカモフラージュは、「自分を偽る行為だけではなく、人との関係を作るために身につけた努力」でもあります。

 

しかし「普通にできているように見える」ことには代償があります

 

具体的に問題となりやすいのは、そのために必要なエネルギーです。

 

社会的な場面で、「今どんな顔をすればよい?」「どのくらい目を見ればよい?」「何を言えばよい?」「今の発言は変ではなかった?」「相手は退屈していない?」と考え続けていれば、当然疲れます。

 

これは外から見れば、「普通に会話できている」「仕事もできている」「人付き合いもできている」ように見えるかもしれません。

 

しかしご本人は、帰宅した途端に何もできなくなり、そして「休日は誰にも会いたくない」「一人になる時間がないと回復できない」ということがあります。

 

Hullらの研究でも、カモフラージュに伴う大きな負担として、強い疲労や不安が報告されています。

 

つまり、「できているように見える」ことと、「無理なくできている」ことは同じではない、ということです。

 

そして、生きづらさの理由が分からないまま、自分を責めることもあります。

 

加えて、自閉症スペクトラム症という診断を受けていない場合、さらに難しい問題が生じやすくなります。

 

というのは、ご本人には、「なぜこれほど疲れるのか分からない」からです。

 

✔周りの人は普通に仕事をしており、人付き合いも飲み会にも行っている。

✔また、自分も表面的には同じことができている。

✔しかし、自分だけ疲れ果てる。

 

すると、「自分は体力がない」「自分は性格がネガティブ」「もっと頑張らなければ」と考えるリスクが高まります。

 

しかし実際には、周囲の人が比較的自然に行っている社会的行動を、ご本人は一つひとつ意識的に処理しているのかもしれないのです。

 

この見えない努力が、生きづらさにつながることがあります。

 

さらに問題なのは、「本当の自分」が分からなくなることです。

 

カモフラージュを長く続けていると、以下のように場面ごとに振る舞いを変えるようになることがあります。

 

✔職場用の自分。

✔友人用の自分。

✔家族用の自分。

✔初対面用の自分。

 

その結果、「では、本当の私はどれなのだろう?」という感覚が生じる場合があります。

 

Hullら(2017)の研究でも、カモフラージュが自己認識やアイデンティティに影響し、「本当の自分ではない」と感じる経験が報告されています。

 

さらに、「友達が好きなのは、演じている自分なのでは?」と思えば、人間関係があっても孤独を感じることにつながります。

 

このように、人とつながるために始めたカモフラージュが逆に、「本当の自分は誰にも知られていない」という生きづらさにつながる場合があるんですね。

 

5:カモフラージュが診断を妨げる

 

Livingstonら(2019)は、診断のある方だけでなく、自閉症スペクトラムを自認している未診断の方や、診断はないものの社会的困難を経験している方についても補償方略を調べました。

 

その結果、診断されていない方でも、診断された方と質的に似た補償方略を使っていることが示されました。

 

つまり、「診断されない→なぜ困っているのか分からない→自力で周囲に合わせる→補償が上手になる→ 困難が外から見えにくくなる→さらに診断につながりにくくなる」という悪循環が起こる可能性があります。

 

ただし、カモフラージュをしているから自閉症スペクトラムだと判断できるわけではありません。

 

周囲に合わせる、会話を準備する、人前で自分を抑えるといった行動は、自閉症スペクトラム以外の理由でも起こります。

 

そのため診断には、幼少期からの発達歴や現在の特性、生活への影響などを総合的に評価する必要があります。

 

また子どもの頃は、「親が予定を管理してくれる、学校では一日の流れが決まっている、周囲の大人が助けてくれる」という環境があります。

 

そのため、自分で多くのことを補償しなくても生活できる場合があります。

 

しかし成人すると、「仕事、一人暮らし、家事、恋愛、職場での曖昧な人間関係、複数の予定管理」など、求められることが一気に増えます。

 

Livingstonらの研究でも、成人期に要求が増えることで、それまで使えていた補償方略だけでは対応しきれなくなった経験が報告されています。

 

そのため、「今までできていたのだから、自閉症スペクトラムではない」とは限らないんですね。

 

そのため、それまで環境やカモフラージュによって補えていたものが、要求の増加によって表面化することがあります。

 

ここで大切なのは、「では、カモフラージュを全部やめた方がよいのでは」とは言えないということです。

 

カモフラージュによって、人間関係が作れたり、仕事を続けられたりすることもあります。

 

そのため、「今日から全部やめましょう」という単純な話ではありません。

 

大切なのは、「どの場面では合わせることが役立っているのか」「どこでは無理をしすぎているのか」「誰の前なら少し力を抜けるのか」「どんな環境ならカモフラージュを減らせるのか」を検討することです。

 

そして、「自分を変えるだけでなく、環境を自分に合わせる」という選択肢もあります。

 

例えば、曖昧な指示を減らしてもらう、静かな環境を選ぶ、一人になる時間を確保する、無理に雑談へ参加しない、自分のコミュニケーションの特徴を理解してもらう、と言ったものがあります。

 

こうした環境調整によって、必要なカモフラージュそのものを減らせる場合があります。

 

6:「普通になる努力」ではなく、「自分を理解すること」へ

 

診断を受けていない時期には、「なぜ自分だけこんなに疲れるのだろう」「どうして自然に人と関われないのだろう」と、自分を責めてしまいがちになってしまいます。

 

しかし、「周囲とのズレを感じ、失敗しないよう周囲を観察し、振る舞いを覚え、それを何年も続けてきた」のであれば、今感じている疲労や生きづらさには理由があるのかもしれません。

 

カモフラージュという視点が役立つのは、「自分は何がおかしいのか」を探すためではありません。

 

それよりも、「自分はこれまで、社会の中でやっていくためにどれだけの工夫をしてきたのか」を理解するためです。

 

その上で「必要なスキルは残す、不要な無理は減らす、環境を調整する、安心できる相手の前では少し力を抜く」と言うことを意識的に行います。

 

そうやって、「普通に見える自分」を上手に作ることだけではなく、「自分にとって無理の少ない生き方」を作っていくことにつながっていくようになってきます。

 

よくある質問

 

Q1.人に合わせる癖が強いだけでも、自閉症スペクトラムの可能性がありますか?

 

人に合わせることだけでは判断できません。

 

対人不安、過去のいじめ、家庭環境、性格などさまざまな理由で同じ行動は起こります。

 

そのため自閉症スペクトラムを考える場合には、幼少期からの社会的コミュニケーション、感覚特性、こだわり、反復的な行動なども含めて総合的に評価します。

 

Q2.友達もいて仕事もできています。それでも自閉症スペクトラムということはありますか?

 

それはあり得ます。

 

診断では「友達がいるか」「仕事ができるか」だけではなく、それをどのように維持しているのかも重要です。

 

社会生活ができていても、非常に大きな努力や疲労を伴っている場合があります。

 

ただし、それだけで診断できるものでもありません。

 

Q3.カモフラージュをやめたら、人間関係が悪くなりそうで怖いです

 

すべてをやめる必要はありませんし現実的はありません。

 

この場合、自分に役立っている社会的スキルと、過剰な負担になっているマスキングを分けることが大切です。

 

そうすることで、「誰の前なら少し減らせるか」など、小さな調整から考えることができます。

 

Q4.周囲に合わせすぎて、自分が何を好きなのか分からなくなっています

 

長期間カモフラージュを続けてきた方では起こり得る悩みです。「本当の自分」を一度に見つける必要はありません。

 

「一人のときに楽なこと」「誰にも評価されなければ選びたいこと」など、小さな好みや感覚から確認していく方法があります。

 

Q5.成人してから自閉症スペクトラムの診断を受けることに意味はありますか?

 

診断を受けるかどうかは、その方の目的によります。

 

診断によって過去の生きづらさを理解しやすくなったり、必要な支援や合理的配慮につながったりする場合があります。

 

一方、診断そのものがすべての問題を解決するわけではありません。

 

そのため、何を知りたいのか、診断によって何を得たいのかを整理したうえで検討するとよいでしょう。

 

参考文献

Hull, L., et al.(2017)
“Putting on My Best Normal”: Social Camouflaging in Adults with Autism Spectrum Conditions.
Journal of Autism and Developmental Disorders, 47, 2519–2534.
DOI: 10.1007/s10803-017-3166-5

Livingston, L. A., Shah, P., & Happé, F.(2019)
Compensatory strategies below the behavioural surface in autism: A qualitative study.
The Lancet Psychiatry, 6(9), 766–777.
DOI: 10.1016/S2215-0366(19)30224-X

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この記事の執筆者

駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)

心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。

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