うつ病によって楽しみが失われる理由~神戸、芦屋、西宮のカウンセリングより~

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好きだったことに興味がわかないのはなぜ?うつ病と「アンヘドニア」の仕組み

好きだったことに興味がわかないのはなぜ?うつ病と「アンヘドニア」の仕組み

2026/10/20

好きだったことに興味がわかないのはなぜ?うつ病と「アンヘドニア」の仕組み

うつ病になってしまった場合、以前は楽しめたことが楽しくなくなる、何をしても楽しめないという悩みが生じることが珍しくありません。

 

こうした状態は、うつ病でみられるアンヘドニアと呼ばれる症状に関係していることがあります。

 

アンヘドニアとは一般に「喜びや楽しさを感じにくくなること」と説明されます。

 

しかし、Treadway & Zald(2011)は、アンヘドニアをそれだけで理解するのは不十分ではないかと指摘しました。

 

つまり、「楽しいと感じられない」ことと、「楽しそうだと思えない」「そこまでして行動しようと思えない」ことは、同じではないため、個別に考える必要があるということです。

 

うつ病では、楽しむ力そのものだけでなく、楽しみを予測すること、そこへ向かって動くこと、努力する価値を感じることにも変化が生じる可能性があります。

 

この違いを理解すると、「私は何も好きではなくなった」「以前の自分と変わってしまった」という認識よりも、自分の状態をもう少し細かく理解できるようになります。

 

そこで今回は、うつ病とアンヘドニアの関係についてシェアしたいと思います。

 

1:アンヘドニアとは「楽しめない」だけではない

 

✔以前は好きだった音楽を聴かなくなった。

✔友達から誘われても断ってしまう。

✔趣味を始める気になれない。

✔食事をしてもおいしく感じない。

 

これらはすべてアンヘドニアとして表現されることがあります。

 

しかし、その内容をよく見ると内容はそれぞれ異なることが見えてきます。

 

例えば、「映画を見始めれば、それなりに楽しめる。でも再生ボタンを押す気になれない」という方もおらrます。

 

一方、「映画を見ても何も感じない」という人では、困っている部分が異なります。

 

Treadway & Zaldは、この違いを報酬に対するwanting(欲する・求める)とliking(実際に快を感じる)という考え方から整理しました。

 

2:「やりたい」と「やったら楽しい」とは別の働き

 

wanting(欲する・求める)とは、簡単にいうと、「それを求めたい」「そこへ向かって行動したい」という働きです。

 

一方、liking(実際に快を感じる)は、実際に経験したときに「心地よい」「楽しい」と感じることです。

 

たとえば好きなケーキがあるとします。

 

「食べたいから買いに行こう」というのがwanting。

 

実際に食べて、「おいしい」と感じるのがlikingです。

 

通常はこの二つが一緒に動くため、私たちはあまり区別しません。

 

しかし、うつ病では、「食べればおいしいけれど、買いに行こうと思えない」ということがあります。

 

この場合、楽しむ力そのものが完全になくなったというより、楽しみに向かって動く力が低下している可能性があります。

 

3:「やれば楽しめる。でも始められない」

 

Treadway & Zaldは、このような問題をmotivational anhedonia(報酬を求めて行動しようとする動機づけの低下)という観点から捉えました。

 

例えば、「友達に会えば楽しいのは分かっている。でも連絡する気になれない」「散歩すれば少し気分が変わる。でも玄関まで行けない」「食べればおいしい。でも料理するのがとても大変に感じる」という状態です。

 

このような場合に、「本当はやりたくないんですね」「好きではなくなったのですね」と理解すると、ご本人の体験とはずれてしまうことがあります。

 

ご本人としては、「楽しむことができないというより、楽しみまでたどり着けない」のかもしれません。

 

4:「実際にやっても楽しくない」場合も

 

一方で、「好きだった音楽を聴いても何も感じない」「家族と食事をしても楽しくない」「以前好きだった料理を食べてもおいしいと感じない」という場合もあります。

 

これは、実際に報酬を経験したときの快感が弱くなっている状態で、consummatory anhedonia(実際に経験している最中の快さが弱い)と呼ばれます。

 

つまり、「始められない問題」と「始めても楽しめない問題」は分けて考えた方がよいということです。

 

さらに、楽しみには、「今度の旅行、楽しみだな」というように、これから起こることを期待する楽しさもあります。

 

これは予期的な楽しさ(anticipatory pleasure)と呼ばれます。

 

うつ病では、「今度友達に会えば多少楽しいかもしれない」という経験が過去にあっても、「今の時点ではそれを楽しそうだと想像できない」ことがあります。

 

そのため、「どうせ行っても楽しくないだろう」と予定を断る。

 

しかし実際に参加すると、「思っていたより悪くなかった」ということもあります。

 

この場合、実際に楽しむ力よりも、未来の楽しさを予測する力の方に問題がある可能性があります。

 

もう一つ重要なのが、努力と報酬のバランスです。

 

例えば、友達に会うためには、以下のプロセスが必要です。

 

✔着替える。

✔電車に乗る。

✔会話する。

✔帰宅する。

 

健康な状態なら、「少し面倒だけど、会えば楽しいから行こう」と判断できるかもしれません。

 

しかし、うつ病になると、「得られそうな楽しさより、必要な努力の方が大きく感じられる」ことがあります。

 

すると、「会えば楽しいかもしれないけれど、そこまでして行くほどではない」となってしまいます。

 

Treadway & Zaldは、こうした報酬のためにどれだけ努力するかという意思決定も、アンヘドニアを理解するために重要だと考えました。

 

5:「やる気がない」というだけで理解できない

 

ここまで考えると、うつ病の方に対して、「やる気が出ない」という表現だけでは不十分だと分かります。

 

同じ「何もしたくない」でも、「楽しそうだと予測できない」のか、「楽しそうだけれど動き出せない」のか、それとも「努力する価値を感じられない」のか、あるいは「実際にやっても楽しめない」のかでケアの方針も違ってきます。

 

そのためカウンセリングでは、「最近、楽しいことはありますか?」だけではなく…

 

✔「やる前には、どれくらい楽しそうだと思いますか?」

✔「始めるまでが特に大変ですか?」

✔「実際に始めると少し楽しめますか?」

✔「終わった後は、やってよかったと思いますか?」

 

…というように分けて確認することとなります。

 

6:「ドーパミン=楽しい物質」と単純には言えない

 

アンヘドニアについて調べると、「うつ病はドーパミンが不足しているから楽しめない」という説明を目にすることがあります。

 

しかし、Treadway & Zaldが紹介した神経科学研究では、もう少し複雑です。

 

ドーパミンは、「楽しい」という快感そのものより、報酬を求めること、そこへ向かって行動すること、努力することに強く関係すると考えられています。

 

つまり、liking(欲する・求める)よりwanting(欲する・求める)に深く関係する可能性があります。

 

そのため、「楽しめない=ドーパミン不足」と単純化することはできません。

 

ここで大切になってくるのが「行動活性化」というアプローチです。

 

行動活性化では、「やる気が出たら行動する」ことだけを待ちません。

 

それよりも、「今はやりたいと思えなくても、できる大きさで少し動いてみる」ことを大切にします。

 

例えば、「散歩したいと思えるまで待つ」のではなく、「家の周りを5分だけ歩く」とします。

 

そして、「やる前の気分」「やっている最中の気分」「終わった後の気分」を比べます。

 

すると、「始める前は全く気が進まなかった。でも歩いたら少し気持ちよかった」ということがあります。

 

ここで分かるのは、「やりたいと思えない」ことと、「やっても楽しくない」ことは同じではないということです。

 

こうした背景があるため、例えば、うつ病の方に「気分転換に好きなことをしてください」と伝えても、「好きなことが分かりません」「何もしたくありません」と返ってくる可能性が非常に高いでしょう。

 

アンヘドニアがあるなら、これは不思議ではありません。

 

そもそも、「これをやったら楽しそう」という感覚自体が弱くなっている可能性があるからです。

 

その場合、「今やりたいこと」ではなく、「以前やって少しよかったこと」「やった後に少し達成感があったこと」を手がかりにする方法があります。

 

また、最初から楽しさを求めすぎないことも大切です。

 

「楽しかった」ではなく、「少し気分が変わった」「やってよかった」「思っていたより嫌ではなかった」でも十分なんですね。

 

7:アンヘドニアを一つの症状として決めつけない

 

Treadway & Zald(2011)の論文は、アンヘドニアに必ず決まった種類があることを証明した研究ではありません。

 

動物研究、神経科学、うつ病研究などを統合し、アンヘドニアを「快感の低下」という一つの概念だけで捉えるのではなく、報酬に関わる複数の過程に分けて理解した方がよいと提案したレビュー論文です。

 

そのため、「自分はどのタイプか」と無理に分類するのは妥当性を欠いてしまいます。

 

それよりも大切なのは、「自分はどの段階でつまずいているのか」を知ることです。

 

よって「何も楽しくない」の中身を、もう少し細かく見てみることが求められます。

 

うつ病になると、「以前の自分なら楽しめたのに」という変化に戸惑うことがあります。

 

そして、「自分はもう何にも興味がない」「怠けているだけなのでは」と自分を責めるリスクも高まります。

 

しかし、アンヘドニアという視点から見ると、「楽しめない」という一言の中には…

 

✔楽しみを予測しにくい

✔やろうという気持ちが起こらない

✔行動を始めるための努力が大きく感じられる

✔実際に経験しても快感が弱い

 

…という異なる問題が含まれている可能性があります。

 

この問題に対してTreadway & Zald(2011)が示した重要な視点は、「楽しめない」と「楽しみを求められない」は同じではないということです。

 

もし、「やる前は全く気が進まない。でも、やってみると少し楽しい」のであれば、楽しむ力が完全になくなっているわけではないかもしれません。

 

その場合には、「やる気が出るのを待つのではなく、今できる小ささまで行動を小さくする」ことが回復のきっかけになることがあります。

 

一方、「やってみても楽しくない」という場合は、無理に楽しもうとしないことが大切です。

 

うつ病のアンヘドニアでは、活動してもすぐに「楽しい」という感覚が戻らないことがあります。

 

そのため、最初から楽しさを目標にすると、「やっぱり何をしても楽しくない」と落ち込みやすくなります。

 

代わりに、「少し気分が変わったか」「少し楽だったか」「やってよかったと思えたか」「達成感が少しでもあったか」くらいを目安にします。

 

そのため、「楽しまなければ」と無理をする必要はありません。

 

まずは、「自分はどこで止まっているのだろう」と確認することから始めるとよいでしょう。

 

アンヘドニアへの支援は、そこから始めることができます。

 

よくある質問

 

Q1.何をしても楽しくありません。無理に趣味を続けた方がよいのでしょうか?

 

無理に以前と同じ量を行う必要はありません。

 

ただし、完全にやめてしまうと、楽しさや達成感に触れる機会も減ります。

 

「10分だけ」「一曲だけ」など小さく試し、実際に行ったときの感覚を確認する方法が、この場合は有効です。

 

Q2.やれば多少楽しめるのに、自分から始められません。

 

そうした場合は、まず自分自身を責めないことが大切です。

 

アンヘドニアでは、実際に楽しむ能力よりも、楽しみを予測したり、そのために行動を起こしたりする力が低下することがあります。

 

「できるのにやらない」と単純に考えず、始めるまでの負担を小さくする工夫が重要です。

 

Q3.アンヘドニアは「やる気がない」のと同じですか?

 

完全には同じではありません。

 

アンヘドニアには、楽しみを期待しにくいこと、動機づけが弱くなること、努力する価値を感じにくくなること、実際の快感が低下することなど、複数の側面が含まれる可能性があります。

 

Q4.好きだったものを楽しめなくなったら、もう興味がなくなったということですか?

 

必ずしもそうではありません。

 

実際、うつ病が改善するにつれて、以前の興味や楽しさが戻ることがあります。

 

そのため、現在楽しめないからといって、それが今後もずっと続くとは限りません。

 

Q5.楽しいことをしても気分が上がらないので、行動活性化は意味がないのでしょうか?

 

行動活性化は一度の活動で気分が大きく改善することだけが目的ではありません。

 

「実際にはどの程度楽しめたか」「達成感はあったか」「生活範囲が少し広がったか」も重要です。気分の変化が小さくても、継続的な活動によって回復につながる場合があります。

 

参考文献

 

Treadway, M. T., & Zald, D. H.(2011)Reconsidering anhedonia in depression: Lessons from translational neuroscience.Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 35(3), 537–555.DOI: 10.1016/j.neubiorev.2010.06.006

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この記事の執筆者

駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)

心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。

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