うつ病が良くなったのに元気になれない理由|症状改善とウェルビーイングの違い
2026/10/14
うつ病が良くなったのに元気になれない理由|症状改善とウェルビーイングの違い
心理カウンセリングでうつ病の方のお話を伺っていると、確かに抑うつは軽減されたのに、症状が軽くなった、つまり楽しみの喪失や仕事へのモチベーションが戻ってこないがゆえに回復したと実感できない方が多数おられます。
こうした感覚は、うつ病からの回復という観点では非常に重要です。
というのは、うつ病からの回復には、症状が軽くなることだけでなく、自分なりに生活を取り戻し、心の状態が比較的よく、意味や充実感を感じられるようになることも含まれるからです。
Weijersら(2022)は、うつ病の回復を一つの尺度だけで捉えるのではなく、症状、ウェルビーイング、アクセプタンス、病気との同一化、社会参加という複数の側面に分けて検討しました。
その結果、特に重要だったのが、抑うつ症状が軽いことと、つらい感情や症状を過度に避けずに扱えること、つまりアクセプタンスでした。
つまり、うつ病の回復は、「つらさが減ったか」だけでなく、「つらさがあっても、自分の生活を少しずつ取り戻せているか」という視点からも考える必要がある、と言う事なんですね。
そこで今回はうつ病の回復に関連するウェルビーイングやアクセプタンスについて解説したいと思います。
1:ウェルビーイングとは「いつも幸せ」という意味ではない
ウェルビーイングという言葉は、少し分かりにくいかもしれません。
簡単に言えば、「心の状態だけでなく、人間関係や生活への満足感、自分らしさなどを含めた『よりよく生きられている状態』です。
そのため、決して「毎日幸せでなければならない」「落ち込んではいけない」という意味ではありません。
例えば。「今日は少し気分が重いけれど、家族と食事をしてよかったと思えた」「仕事で疲れたけれど、自分なりに役割を果たせた」「以前より、自分の生活を自分で選んでいる感じがする」…。
こうした状態もウェルビーイングに含まれます。
つまり、「症状がないこと=ウェルビーイングが高いこと」ではありません。
症状がかなり減っていても、「何も楽しくない」「誰とも関わりたくない」「何のために生活しているのか分からない」という状態はあり得ます。
反対に、多少の抑うつ症状が残っていても、「人とつながれている」「自分にとって大切なことがある」「少しずつ生活を取り戻している」と感じられることもあるんですね。
この違いが、うつ病の回復を考えるうえで重要です。
2:「症状が減ること」と「よりよく生きること」は別の軸である
Weijersらの研究では、うつ病の回復を複数の要素に分けました。
その考え方の背景には、精神症状の少なさと、心の健康の高さは完全に同じではないという考えがあります。
例えば、「落ち込みは減った」けれど、「何をしても楽しくない」ということがあります。
これは症状回復は進んでいるけれど、ウェルビーイングはまだ十分に戻っていない状態と考えることができます。
逆に、「まだ朝は少しつらい」けれど、「仕事には少しずつ戻れている」「家族との時間を楽しめるようになってきた」という場合もあります。
つまり、回復には「症状回復」と「生活や人生を取り戻していく回復」の両方があるということになります。
3:アクセプタンスとは?
もう一つ、この研究で重要だったのがアクセプタンスです。
アクセプタンスは、日本語にすると「受容」と訳されます。
アクセプタンスを具体的に言いますと、「今ある感情や症状を、無理に追い払おうとせず、その存在を認めながら必要な行動を選ぶこと」です。
ただし、「うつ病なんだから仕方ない」「もう良くならなくてもいい」と諦めることではありません。
例えば「今日は気分が沈んでいる。だから何もできない」ではなく、「今日は気分が沈んでいる。それでも、5分だけ外に出てみよう」と考えてみるというものです。
あるいは、「不安がなくなったら仕事に戻ろう」ではなく、「不安はまだあるけれど、できる範囲から仕事に戻ってみよう」と考えてみる
これがアクセプタンスに近い姿勢です。
大切なのは、「症状をなくすことを、生活を始めるための条件にしすぎないこと」です。
4:「良くなってから生きる」ではなく「生きながら良くなる」
うつ病になると、どうしても「元気になってから外出しよう」「やる気が戻ってから人に会おう」「不安がなくなってから仕事に戻ろう」と考えがちになります。
しかし、完全に症状がなくなるまで生活を止めてしまうと、「人とのつながり、活動、達成感、楽しみ、役割」といった回復につながる経験も減ってしまいます。
そのためアクセプタンスの視点では、「症状があるかないか」ではなく、「症状がある状態でも何ができるか」を考えます。
もちろん、これは無理をしましょうという意味ではありません。
「以前と同じように全部やる」のではなく、「今日は10分歩く」「友人に短いメッセージを送る」「仕事を半日だけ行う」といった小さな行動でも構いんですね。
回復とは、「元気になった後に人生へ戻ることではなく、人生へ少しずつ戻る中で元気を取り戻していくこと」という意味で捉える必要があるということが言えるでしょう。
5:うつ病が「自分そのもの」になってしまうとき
この研究では、病気との同一化という側面も調べられました。
うつ病が長く続くと、「私は何もできない人間だ」「私はうつ病の人だ」「これがずっと自分なのだ」と感じることが、どうしてもあります。
しかし、「自分にはうつ病がある」ことと、「自分そのものがうつ病である」ことは決定的に違います。
うつ病は、その方が経験している状態の一部ではありますが、その方の人格や人生のすべてではありません。
そのためカウンセリングでも、「うつ病になる前の自分に完全に戻る」ことも重要ですが、「うつ病を経験した自分として、これからどのように生きていくかを一緒に考えることが大切になってきます。
これも回復の一つです。
6:回復における社会参加の意義
Weijersらの研究では、仕事、学業、人間関係などの社会参加も回復の一部として扱われました。
興味深いのは、治療の初期よりも、ある程度時間がたった後の方が、社会参加とウェルビーイングとの関係が強くなっていたことです。
これは臨床的にも理解しやすい結果です。
うつ病が非常に重い時期には、「眠れるようになる」「食べられるようになる」「強い最悪の選択肢への考えが弱まる」といった症状への対応が優先されます。
しかし症状が落ち着いてくると、「仕事にどう戻るか」「人との関係をどう再開するか」「これから何を大切に生きるか」というテーマが重要になってきます。
つまり、回復の課題は時期によって変わってくるんですね。
そこに社会的参加が加わることで、回復はより堅実なものへと変わっていきます。
7:「アクセプタンスさえできれば症状は関係ない」わけではない
アクセプタンスで誤解されやすいことがあります。
Weijersらの研究では、アクセプタンスが高い人ほどウェルビーイングも高い傾向がありました。
しかし、「アクセプタンスができれば、重いうつ症状があっても問題ない」と示されたわけではありません。
そして症状の軽減そのものも、ウェルビーイングと強く関連していました。
つまり、「症状を減らすこと」と「症状や感情との付き合い方を変えること」の両方が回復においては大切なんですね。
そのため、例えば薬物療法や認知行動療法などで症状を軽減しながら、同時に、「症状がある自分をどう扱うか」を考えるということになります。
この二つは決して対立するものではありません。
症状は症状としてケアしながら、一方でその症状との向き合い方を変えることが回復を大きく助けてくれます。
8:症状が軽くなった後こそ「これからどう生きるか」が大切になる
心理カウンセリングでは、まずは「落ち込みはどれくらい減ったか」「睡眠は改善したか」「食欲は戻ったか」という点を重視します。
しかし、だけでなく「最近、何か楽しめることはあるか」「人とのつながりは戻ってきているか」「自分らしさを感じることはあるか」「症状があってもできることは増えているか」「これからどんな生活を送りたいか」ということも同じように重視します。
うつ病からの回復は、「症状がゼロになる」ことだけを意味するものではありません。
症状が軽くなる、つらい感情を少し扱えるようになる、人との関係が戻ってくる、自分の役割を取り戻す、うつ病以外の自分を感じられるようになる…。
そして、自分にとって大切な生活へ少しずつ戻っていくという、こうした複数の変化を含めて、回復と考えることができます。
Weijersら(2022)の研究は、「どのくらい症状がなくなったか」だけでなく、「どのくらい自分の人生を取り戻せているか」も見るべき、ということを示唆しています。
うつ病からの回復を考えるとき、「まだ症状があるから回復していない」という一つの基準だけで自分を評価することは妥当ではありません。
「症状はまだある。でも以前より人と話せるようになった」
「気分は重い。でも自分で一日を選べるようになった」
そうした変化も、十分に回復の一部だという視点は非常に重要です。
よくある質問
Q1.まだ落ち込む日があります。それでも「回復している」と考えてよいのでしょうか?
回復は「一度も落ち込まなくなること」だけではありません。
落ち込む日があっても、以前より生活できる範囲が広がったり、人と関われたり、自分で対処できるようになっているなら、それも回復の重要なサインです。
Q2.アクセプタンスをすると、うつ病を治そうとする気持ちが弱くなりませんか?
アクセプタンスは治療を諦めることではありません。
「今この症状がある」という現実と無理に戦い続けるのをやめながら、治療や生活上必要な行動は続けます。
つまり、症状を改善することとアクセプタンスは両立するものです。
Q3.症状が残っているのに仕事へ戻るのは危険ではありませんか?
症状の重さや仕事内容によります。
無理な復職は避ける必要がありますが、「完全に症状がなくならなければ復職できない」とも限りません。
この場合は、医療機関や支援者と相談しながら、勤務時間や業務量を調整して段階的に戻る方法も検討材料となるでしょう。
Q4.以前の自分に戻れない感じがしてつらいです
うつ病からの回復が、必ずしも「発症前とまったく同じ自分に戻ること」とは限りません。
うつ病を経験した後に、以前とは違う価値観や生活のペースを選ぶこともあります。
「元に戻る」だけでなく、「これからの自分をつくる」という視点も持つことも大切です。
Q5.症状はかなり改善したのに何も楽しくありません。治療は失敗なのでしょうか?
そうとは限りません。
抑うつ症状の軽減とウェルビーイングの回復には時間差が生じることがあります。
症状が落ち着いた後に、人とのつながり、活動、楽しみ、役割、価値に沿った行動などを少しずつ取り戻す段階が必要なことがあります。
参考文献
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こころのケア心理カウンセリングRoom
兵庫県芦屋市浜芦屋町1-27 サニーコート浜芦屋302号
電話番号 : 090-5978-1871
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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