ASD(自閉スペクトラム症)の方がうつになったら?特性に合わせた心理療法と回復への方法とは
2026/11/02
ASD(自閉スペクトラム症)の方がうつになったら?特性に合わせた心理療法と回復への方法とは
ASD(自閉症スペクトラム症)の方が抑うつになった場合、通常のうつ病のケアとは異なる対応が求められる場合があります。
一般的に抑うつ状態になった場合、「もっと外出しましょう」「人と交流しましょう」「楽しいことを増やしましょう」と勧められることがあります。
しかし、そう言われても、かえって負担に感じたり、何から始めればよいか分からなかったりすることもあるでしょう。
そのためASDのある方の抑うつを改善するために大切なのは、単に活動量を増やすことではなく、本人の特性や価値観に合わせて、意味のある活動を取り戻していくことです。
また、活動が難しい理由を意欲の問題だけで考えず、感覚過敏、実行機能の困難、対人関係の負担などにも目を向ける必要があります。
こうした背景から、近年の心理学研究ではASDの特性に合わせた心理療法のあり方が検討されています。
そこで、このブログでは心理カウンセラーの立場から、ASDのある方が抑うつ状態になる背景と、自分らしい生活を取り戻すための心理的アプローチについてシェアしたいと思います。
※本記事は公認心理師としての一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の方の診断・治療を行うものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関等の専門機関にご相談ください。
1:ASDのある人は、なぜ抑うつ状態になることがあるのか?
まずは簡単にASD(自閉症スペクトラム症)について触れたいともいます。
ASDは、コミュニケーションや社会的相互作用の特性、興味や行動の特徴、感覚の感じ方などに個人差が見られる神経発達症です。
そしてASDそのものが、必ずしもうつ病を引き起こすわけではありません。
しかし、周囲の人とのコミュニケーションのすれ違い、感覚刺激による疲労、環境の変化、日常生活の負担などが重なることで、心理的なストレスが大きくなる場合があります。
例えば、職場で周囲に合わせようと努力し続け、自宅に帰る頃には何もできないほど疲れてしまう方もいます。
また、自分の困りごとを理解してもらえず、「努力が足りない」「もっと頑張れるはず」と言われ、自信を失ってしまうこともあるでしょう。
自分の特性を周囲に気づかれないよう、表情や話し方、振る舞いを意識的に調整することを「カモフラージュ」と呼びますが、このカモフラージュによって人知れず消耗してしまう方もおられます。
これらの負担の蓄積が、抑うつや強い疲弊に関係する場合があるんですね。
ただし、抑うつの原因は一人ひとり異なります。
そのためASDの特性だけに原因を求めず、生活環境や精神的・身体的な健康状態を総合的に理解することが重要となってきます。
2:うつ病とASDによる疲弊は同じではない
ASDのある方の中には、強い疲労や感覚刺激への耐性の低下、以前できていたことが難しくなる状態を経験する方がおられます。
このような状態は「自閉スペクトラム・バーンアウト(Autistic Burnout)」と呼ばれることがあります。
例えば、人と関わる負担が長期間続いた結果、外出や会話が極端につらくなる場合を考えるとイメージしやすいかと思います。
こうした疲弊は、うつ病と症状が重なることがありますが、同じものとは限りません。
また、両方が同時に生じる可能性もあります。
2025年に発表された系統的レビューでも、感覚的・社会的な過負荷、周囲に合わせ続ける負担、休息や支援の不足などが、こうした疲弊と関係することが報告されています。
そのため、活動できなくなっている場合には、抑うつによって活動を避けているのか、疲弊によって休息が必要なのかを慎重に考える必要があります。
3:抑うつの改善に役立つ「行動活性化」とは?
行動活性化(Behavioral Activation:BA)は、うつ病に対する心理療法の一つとして知られています。
抑うつ状態になると、以前は楽しめていた活動や、生活に必要な行動が減ってしまうことがあります。
活動が減ると、達成感や楽しさを感じる機会が少なくなり、さらに気分が落ち込みやすくなる場合があります。
行動活性化では、この悪循環を改善するために、無理のない範囲で活動を取り戻していきます。
ただし、ASDのある方に行動活性化を行う場合には、活動を増やすことだけを目標にするのは適切ではありません。
2023年、Balらは、ASDのある成人への行動活性化について、本人にとって活動がどのような意味を持つのかを重視する理論的な枠組みを提案しました。
例えば、人との交流を増やすことが回復につながる方もいれば、一人で趣味に没頭する時間を確保することが重要な方もいます。
つまり、何をするべきかではなく、その人にとって何が大切なのか、つまりご本人の価値観を出発点にするという考え方です。
4:ASDのある方にとって大切な5つの活動の意味
Balらは、本人の価値観に沿った活動について、いくつかの重要な働きを挙げています。
(1)生活の見通しを持てること
ASDのある方の中には、予定が分からないことや突然の変更に強い負担を感じる方がいます。
その場合、起床後に何をするのか、いつ休憩するのかなど、生活に一定の見通しを持てることが役立つかもしれません。
これは厳しい規則を作るという意味ではありません。
毎日何をするか考える負担を減らし、安心して行動しやすくするための工夫といえるでしょう。
(Ⅱ)自分らしさや目的を感じられること
人にはそれぞれ、大切にしている興味や関心があります。
例えば、鉄道、音楽、ゲーム、動物、プログラミングなど、特定の分野への深い関心が、自分らしさや達成感につながる場合があります。
つまり、周囲から見て一般的な活動かどうかではなく、ご本人にとってどのような意味があるのかを大切にします。
(Ⅲ)自分で選び、決められること
生活の中で自分の意思が尊重されることも重要です。
例えば、休日の過ごし方を自分で決める、取り組む活動を選ぶ、家庭の中で担いたい役割を決めるなどです。
家族や支援者が善意からすべてを決めてしまうと、本人の自己決定感が小さくなることがあります。
そのため、小さなことでも「自分で選べた」という経験が、自分の生活を主体的に進める手がかりになります。
(Ⅳ)自分に合った人とのつながりを持てること
人とのつながりが大切であっても、必ずしも多くの人と交流する必要はありません。
少人数での交流を好む方もいれば、オンラインで共通の趣味について話すことを楽しむ方もおられます。
そのため、社会的なつながりを増やす場合にも、本人が望んでいるかどうかを確認することが重要です。
(Ⅴ)楽しみや余暇を持てること
趣味や好きなことに取り組む時間は、生活の満足感につながる場合があります。
例えば、ゲームをしている時間を、すべて回避行動や好ましくない習慣として扱うべきではありません。
ゲームが楽しみや達成感をもたらすこともあれば、人との交流につながることもあります。
ただし、睡眠や生活に支障が生じている場合には、活動全体のバランスを検討することがもとめられます。
5:楽しい活動だけでなく、目標につながる活動も大切
Balらは、本人の価値観に沿った活動に加えて、「目標志向的な活動」も重視しています。
これは、その活動自体が楽しいとは限らなくても、本人が望む将来につながる行動のことです。
例えば、就職したいと考えている方にとって、求人情報を見ることや応募書類を作ることは、必ずしも楽しい活動ではないかもしれません。
しかし、自分が望む仕事に近づくための意味のある行動になります。
ここで大切なのは、周囲が決めた目標ではなく、本人が実現したい目標に向かって進めることです。
ただし、ASDのある方の中には、活動の計画を立てたり、作業を始めたり、別の活動へ切り替えたりすることに難しさを感じる方がいます。
これは「実行機能」の特性が関係している可能性があります。
例えば、散歩をしたいと思っていても、準備する物や出発する時間を決められず、結果として外出できない場合です。
この場合、「やる気を出しましょう」と促すよりも、準備を細かく分けたり、活動を始めるきっかけを決めたりする方が役立つことがあります。
また、感覚過敏によって外出が負担になっているなら、静かな場所を選ぶ、混雑を避ける、休憩を取り入れるといった環境調整も重要です。
つまり、活動できない理由を本人の努力不足として扱わず、どのような障壁があるのかを一緒に考えることが大切です。
6:ASDの特性を変えるのではなく、自分らしい生活を取り戻す
抑うつ状態になると、以前のように活動できない自分を責めてしまうことがあるかもしれません。
しかし、回復のために必要なのは、無理に周囲と同じような生活を目指すことではありません。
自分にとって何が大切なのか、どのような環境なら無理なく過ごせるのか、どのような活動が充実感につながるのかを理解していくことです。
そのため心理カウンセリングでは、ASDの特性そのものをなくすのではなく、本人の強みや価値観を尊重しながら、抑うつ症状の改善と生活の質の向上を目指します。
大切なのは、活動を増やすことだけではなく、自分らしく過ごせる生活を少しずつ取り戻していくことと言えるでしょう。
よくある質問
Q1.ASDがあると、うつ病になっても自分で気づきにくいのでしょうか?
人によっては、自分の感情を把握したり、言葉で表現したりすることに難しさがあるため、抑うつの変化に気づきにくい場合があります。
これをアレキシサイミア(失感情症)と呼ぶことがあります。
そのため気分だけで判断せず、睡眠、食欲、疲れやすさ、好きなことへの関心、日常生活の変化なども確認することが大切です。
Q2.人と関わると疲れてしまいます。それでも交流を増やした方がよいですか?
必ずしも交流を増やす必要はありません。
まず、自分がどのような人間関係を望んでいるのか、どの程度の交流なら負担が少ないのかを考えてみましょう。
例えば孤独を感じているなら、共通の趣味を持つ人との少人数の交流など、自分に合った方法を検討できます。
一方、強い疲弊がある場合は休息や環境調整が優先されることもあります。
Q3.予定を立てても実行できず、自分が嫌になります。どうすればよいですか?
活動できなかった理由を、意欲だけで考えないことが大切です。
準備が複雑すぎないか、時間が決まっているか、感覚的な負担がないかなどを確認してみてください。
例えば、「部屋を片付ける」という目標を「机の上の物を一つ片付ける」に変える方法もあります。
小さく始め、実行しやすい環境を整えることが重要です。
Q4.好きなゲームだけはできます。それでもうつ病なのでしょうか?
ゲームを楽しめることだけで、うつ病ではないと判断することはできません。
うつ病では、すべての活動への興味が同じ程度に失われるとは限らないからです。
一方、ゲームが安心感や楽しみを得られる大切な活動になっている可能性もあります。
気分、睡眠、疲労、生活への影響などを含めて総合的に判断する必要があります。
Q5.ASDとうつ病がある場合、薬物療法と心理カウンセリングのどちらがよいのでしょうか?
抑うつの重症度や生活への影響などによって、適切な治療方法は異なります。
心理カウンセリングでは活動や環境の調整、ストレスへの対処などを扱うことができますが、薬物療法や医療的な支援が必要な場合もあります。
特に、強い抑うつや最悪の選択肢を考えてしまうという問題がある場合には、医療機関での評価が重要です。
そのため、まずは主治医と相談しながら治療方針を検討することが大切です。
参考文献・研究資料
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こころのケア心理カウンセリングRoom
兵庫県芦屋市浜芦屋町1-27 サニーコート浜芦屋302号
電話番号 : 090-5978-1871
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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