適応障害がなかなか治らないのはなぜ?ストレスから抜け出せない心理的な仕組み
2026/11/03
適応障害がなかなか治らないのはなぜ?ストレスから抜け出せない心理的な仕組み
1:適応障害とは?ストレスへの「とらわれ」と「適応の困難」から考える回復への方法
みなさん、こんにちは。
神戸や芦屋、西宮などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
さて、今回のテーマは適応障害です。
適応障害は、ストレスによって気分が落ち込んだり、不安になったりするだけでなく、ストレスとなった出来事について考え続けてしまうことや、心理的な落ち着きや日常生活を取り戻すことが難しくなることが重要な特徴として考えられています。
つまり、適応障害からの回復を考えるうえでは、ストレスを減らすことに加えて、その出来事をどのように考え続けているのか、生活のどの部分が難しくなっているのかを理解することが大切になってきます。
これは、ご本人の考え方が悪いという意味ではありません。
ストレスの原因となっている環境を見直しながら、心配や反芻との付き合い方、休息や活動の方法を調整していくということです。
そこで、このブログでは、心理カウンセラーの立場から、世界保健機関(WHO)の診断分類と心理学研究をもとに、適応障害の仕組みと回復のための心理的アプローチをシェアしたいと思います。
※本投稿は公認心理師としての一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の方の診断・治療を行うものでも効果を保証するものでもありません。
※気になる症状がある場合は、必ず医療機関等の専門機関にご相談ください。
2:適応障害とは?ストレスによって心と生活に影響が生じる状態
適応障害は、仕事、人間関係、家庭、健康上の問題など、特定できるストレスに関連して生じる精神的な不調です。
例えば、職場の異動によって仕事の負担が増えたり、上司との関係が悪化したりしたことをきっかけに、不安や抑うつ、睡眠の問題などが生じる場合があります。
WHOが定めるICD-11(国際疾病分類第11版)では、適応障害は「ストレス特異的関連症群」に分類されています。
ちなみに、ICD-11に対応する日本語の標準的な名称は「適応反応症」です。
ICD-11では、明確なストレス因が存在し、その出来事や結果へのとらわれ、ストレスへの適応の困難が認められることを重視しています。
症状は通常、ストレスが生じてから比較的早い時期に現れ、仕事や家庭、対人関係などに支障をもたらします。
ただし、ストレスがあるからといって、必ず適応障害になるわけではありません。
また、うつ病や不安症など、ほかの精神疾患によって症状が説明される場合もあります。
そのため、適切な診断には専門的な評価が必要になってきます。
3:適応障害を理解するための二つの重要な症状
2020年、Shevlinらは、ICD-11の適応障害を評価する「国際適応障害質問票(International Adjustment Disorder Questionnaire:IADQ)」を開発し、その信頼性と妥当性を検討しました。
研究では、適応障害を理解するうえで、次の二つの症状群に注目しています。
一つは「ストレス因へのとらわれ」、もう一つは「適応の困難」です。
調査の結果、この二つを区別する測定モデルが支持され、質問票には良好な内的一貫性が認められました。
また、これらの症状は抑うつや不安とも強く関連していました。
ただし、二つの症状群は非常に密接に関連しており、独立した原因として働くことが証明されたわけではありません。
それでは、それぞれどのような状態なのかを見ていきましょう。
(Ⅰ)ストレス因へのとらわれ:嫌な出来事が頭から離れない
例えば、職場で上司から厳しく叱責されたとします。
その場は終わっているのに、帰宅してからも叱責された場面が繰り返し浮かんでくることがあります。
「あのとき、どうしてあんなことを言われたのだろう」「自分の対応が悪かったのだろうか」「明日も同じことが起きるのではないか」。
こうした考えが続くと、仕事が終わっても気持ちを切り替えることが難しくなります。
このように、ストレスとなった出来事やその結果について、繰り返し考えたり心配したりする状態を「ストレス因へのとらわれ(Preoccupation with the stressor)」と呼びます。
その中には、主に二つの思考の働きが見られます。
● 過去の出来事を繰り返し考える「反芻」
反芻(Rumination:ぐるぐる思考)とは、過去の出来事やその原因、意味について繰り返し考えることです。
反芻の場合、「自分の何が悪かったのか」「あのとき別の対応をしていれば」と考え続けても、納得できる答えが得られない場合がほとんどです。
もちろん、出来事を振り返って問題点を整理することは大切です。
しかし、考えても新たな結論が得られず、同じ疑問を繰り返して苦痛が強まっている場合には、反芻が負担になってくるリスクが高くなってしまいます。
● 将来の悪い出来事を予測する「心配」
心配(Worry)は、これから起こるかもしれない問題について考えることです。
これは「また上司に叱責されるかもしれない」「会社に居場所がなくなるのではないか」といった考えが該当します。
実際に心配には、将来の問題に備えるという有益な働きもあります。
しかし、まだ起きていない出来事について最悪の可能性を考え続けていると、不安が長引くという問題が生じやすくなります。
そのため重要なのは、考えること自体を問題にするのではなく、その思考が問題解決に役立っているのか、それとも苦痛を持続させているのかを見極めることです。
(Ⅱ)適応の困難:以前のような生活を取り戻せない
もう一つの中核症状が「適応の困難(Failure to adapt)」です。
例えば、職場での出来事がきっかけとなり、休日も気持ちが落ち着かない、十分に眠れない、趣味を楽しむ余裕がなくなるといった状態が典型例です
Shevlinらの質問票では、ストレスを経験した後に、生活に適応することが難しい、リラックスできない、心の平穏を取り戻せないといった側面を評価しています。
ここで注意したいのは、適応の困難とは、本人の適応能力が低いことや、努力が足りないことを意味するものではないという点です。
例えば、職場でハラスメントを受けている場合、その環境に無理に適応することが望ましいわけではありません。
実際には安全な環境を確保し、ストレスの原因を減らすことが必要な場合も珍しくありません。
また、心身の疲労が大きいときには、活動を増やすよりも休息を優先すべき場合があります。
そのため適応の困難を理解するには、本人の心理状態だけでなく、置かれている環境や利用できる支援にも目を向ける必要があります。
4:「とらわれ」と「適応の困難」は、どのように関係するのか?
例えば、仕事で嫌な出来事があった後、そのことを何度も思い出して眠れなくなったとします。
また睡眠不足によって集中力が低下すると、仕事が思うように進まなくなるかもしれません。
すると、「また失敗するのではないか」と心配が増え、さらに気持ちが落ち着かなくなることにつながります。
このように、ストレス因へのとらわれと、生活への適応の困難は相互に影響し、悪循環を形成する可能性があります。
5:適応障害から回復するための心理的アプローチ
では、適応障害に対してどのようにアプローチをすればよいかを見ていきましょう。
(Ⅰ)まず、ストレスの原因と環境を整理する
最初に取り組みたいのは、何が負担になっているのかを整理することです。
例えば、仕事そのものが負担なのか、業務量が多すぎるのか、特定の人との関係が問題なのかによって、必要な対処は異なってきます。
そしてストレスの原因を減らせる場合には、業務調整、休職、相談窓口の利用なども選択肢になります。
つまり、心理的な対処だけで、すべての問題を解決しようとする以外の選択肢も検討する必要があるんですね。
(Ⅱ)反芻や心配との付き合い方を見直す
嫌な出来事が浮かんだとき、すぐに答えを出そうとしたり、原因を突き止めようとしたりすることがあります。
しかし、繰り返し考えても新しい結論が得られない場合には、いったん考えることから離れる練習が役立つ可能性があります。
例えば、「今、またあの出来事について考えている」と気づき、目の前の活動に注意を戻してみる、というものです。
これは、考えを無理に消そうとすることではありません。
思考が浮かんでも、必ずしもその続きを考え続けなくてよいという関わり方を身につけることです。
(Ⅲ)問題解決と考え続けることを区別する
認知行動療法(CBT)では、解決できる問題を明確にし、具体的な対処を検討する方法があります。
例えば、業務量が多いという問題であれば、上司への相談や優先順位の調整など、現実的な行動を考えます。
一方、「上司は自分をどう思っているのだろう」という、答えを確かめられない問いについて考え続けても、解決には、なかなかつながりません。
そのため必要な問題解決を行い、それ以外の反復的な思考に費やす時間を減らすことが重要になってきます。
(Ⅳ)休息と活動のバランスを取り戻す
適応障害では、心身の緊張や疲労によって、以前のように活動することが難しくなる場合があります。
その場合、まず睡眠や休息の確保を考えます。
一方で、疲労が軽減してきたら、無理のない範囲で趣味や日常活動を再開することも検討できます。
大切なのは、以前と同じ生活に急いで戻ることではなく、今の状態に合った活動を選ぶことです。
5.自分にとって大切な生活を考える
ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)では、不快な思考や感情を無理に消すことだけを目標にせず、自分が大切にしたい行動を選ぶことを重視します。
例えば、「仕事のことで頭がいっぱいになって、家族との時間を楽しめなくなっている」という場合です。
この場合、不安が完全になくなるまで待つのではなく、体調に配慮しながら、家族と過ごす時間を少しずつ取り戻すことが考えられます。
ただし、これは無理に活動するという意味ではありません。
必要な休息や環境調整を行いながら、生活の選択肢を広げていくことが目的です。
6:適応障害からの回復で大切にしたいこと
適応障害になると、「以前は普通にできていたのに」「なぜ自分だけこんなに苦しいのだろう」と感じることがあるかもしれません。
しかし、回復は単にストレスに耐えられるようになることではありません。
ストレスの原因を整理し、必要に応じて環境を変え、嫌な出来事との付き合い方を見直しながら、安心して過ごせる生活を取り戻していくことが大切です。
また、回復までの経過には個人差があります。ストレスが続いている場合や、ほかの精神疾患が併存している場合には、時間がかかることもあります。
大切なのは、つらい環境に無理に適応しようとすることではなく、自分が安心して生活できる状態を目指していくことです。
よくある質問
Q1.適応障害で休職しています。仕事に戻ることを考えるだけで不安になります。どうすればよいですか?
復職を考えたときに不安が強まる場合、まず何に不安を感じているのかを整理することが大切です。
以前と同じ職場環境に戻ることが不安なのか、仕事をこなせるかが心配なのかによって対応は異なります。
この場合は主治医や職場の産業保健スタッフと相談し、必要な環境調整や段階的な復職計画を検討することが大切です。
Q2.ストレスの原因から離れたのに、嫌なことを思い出してしまいます。なぜでしょうか?
ストレスの原因から離れても、その出来事についての記憶や不安がすぐになくなるとは限りません。
特に、出来事の意味を繰り返し考えたり、将来も同じことが起こるのではないかと心配したりする場合があります。
そのため、思い出さないように無理に抑えるよりも、思考との付き合い方を見直すことが役立つ場合があります。
Q3.職場や家族から「自分に甘いのでは」と言われます。どう受け止めればよいでしょうか?
適応障害は、ストレスに関連して精神的な苦痛や生活機能への支障が生じる状態であり、本人の努力不足を意味するものではありません。
周囲から理解を得られない場合は、主治医の意見を踏まえて業務上の配慮を相談したり、必要に応じて産業医などに支援を求めたりする方法があります。
Q4.適応障害とうつ病は、どのように違うのでしょうか?
適応障害は特定できるストレス因との関係が重要であり、ICD-11ではストレス因へのとらわれと適応の困難が特徴とされています。
一方、うつ病では抑うつ気分や興味・喜びの低下などを中心に、症状の種類や持続期間などから判断します。
ただし、両者には共通する症状もあるため、自己判断ではなく専門的な診断が必要です。
Q5.適応障害が改善しても、再びストレスを受けたら再発するのでしょうか?
再び強いストレスを受けた場合に不調が生じる可能性はありますが、必ず再発するとは限りません。
回復の過程で、自分にとって負担となりやすい状況を理解し、早めに休息を取る、周囲に相談する、環境を調整するといった対処方法を身につけることは、今後のストレスへの備えにもつながります。
参考文献・資料
Trauma Measures GlobalInternational Adjustment Disorder Questionnaire(IADQ)
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こころのケア心理カウンセリングRoom
兵庫県芦屋市浜芦屋町1-27 サニーコート浜芦屋302号
電話番号 : 090-5978-1871
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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