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自傷行為(セルフハーム)に対する理解~神戸、芦屋、西宮のカウンセリングより~

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【詳細解説】自傷行為に対する適切な理解とは?~感情調整と対人関係の視点から~

【詳細解説】自傷行為に対する適切な理解とは?~感情調整と対人関係の視点から~

2026/06/16

みなさん、こんにちは。

神戸や芦屋、西宮などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。

 

自傷行為(セルフハーム)は、多くの場合周囲の理解を得ることが難しい問題と言えます。

 

周囲の方からすれば自傷行為を目の前にすると、「どうしてそんな痛いことをするのか」「今すぐやめてほしい」と感じます。

 

またご本人自身も、「やめたいのに繰り返してしまう」「自分でも理由がわからない」と苦しんでいることがあります。

 

自傷行為を理解するときに大切なのは、行為の形だけを見るのではなく、その行為によって何が変化したのかを見ることです。

 

具体的には、自傷行為のあとで張りつめていた感情が一時的にやわらいだり、何も感じられなかった状態から現実感を取り戻したりすることがあります。

 

また、耐えがたい状況から一時的に離れるきっかけになったり、言葉では表せなかった苦しさを周囲に伝える手段になったりする場合もあります。

 

このような変化が起こると、短期的にはご本人の苦痛が軽くなる場合があります。

 

そのため、ご本人も望んでいないのに、その行為が繰り返されやすくなってしまいます。


そのため、自傷行為を減らすためにこそ、まず「その行為が何をしてくれているのか」、つまり「自傷行為の役割」を理解する必要があります。

 

そこで今回のブログでは、自傷行為を理解するための視点をシェアしたいと思います。

 

※本投稿は公認心理師としての一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の方の診断・治療を行うものでも効果を保証するものでもありません。

※気になる症状がある場合は、必ず医療機関等の専門機関にご相談ください。

 

1.自傷行為はなぜ繰り返されるのか~行為を問題視する前に大切な理解とは~

 

 

さて、本題に入る前に、いつものように参照にした論文の解説をカンタンにいたしますね。

 

1-1.この論文は何を調べた研究なのか

 

Nock & Prinstein(2004)の論文は、自傷行為がどのような機能によって維持されているのかを調べた研究です。

 

そして研究者たちは、自傷行為の機能を二つの軸から整理しました。

 

一つ目は、行為による変化が、本人の内側に起こるのか、それとも周囲との関係に起こるのかという違いです。

 

二つ目は、行為によって、つらいものが減るのか、それとも何か必要なものが加わるのかという違いです。

 

この二つを組み合わせることで、自傷行為の機能は次の四つに整理されます。

 

つらい感情や思考を弱める


感覚や現実感を取り戻す


つらい状況や要求から離れる


苦しさを伝え、支援を得る

 

研究では、強い感情を下げる、感覚を取り戻すといった、ご本人の内側で起こる変化が多く報告されました。

 

一方で、つらい状況から逃れる、周囲に苦しさを伝えるといった対人関係上の機能も一定数確認されています。

 

1-2.現在の「非自殺性自傷」との関係

 

この論文では、「self-mutilative behavior」という用語が使われています。

 

現在では、最悪の選択肢を主な目的とせず、自分の身体を意図的に傷つける行為を「非自殺性自傷」と呼ぶことが増えています。

 

ただし、最悪の選択肢を目的としていない自傷と最悪の選択肢を完全に切り離して考えることはできません。

 

ご本人が「そんなつもりはなかった」と話していても、最悪の選択肢を考えてしまうという問題が同時に存在していることがあります。

 

また、その時々の状況によって、行為の意図が変化する場合もあります。

 

そのため、自傷行為が見られる場合には、最悪の選択肢の意図があるかどうかだけで判断するのではなく、現在どの程度最悪の選択肢に対する気持ちがあるのか、自傷衝動を自分で止められる状態か、行為の頻度や危険性が高まっていないかを丁寧に確認する必要があります。

 

合わせて、一人で安全に過ごせる状態か、身体的な処置が必要ではないか、困ったときに助けを求められる人や支援先があるかについても確認することが重要です。

 

自傷行為の機能を理解することと、安全性を軽く扱うことは別です。

 

実際に、ご本人にその意図はなくても、自傷行為によって命が危険に晒されるというケースもあります。

 

そんため、心理的な理解と安全確保の両方が絶対に必要になってきます。

 

1-3.自傷行為を「機能」で理解するとは

 

ここでいう機能とは、その行為がご本人にとってどのような働きをしているかという意味です。

 

例えば、職場で強く責められたあとに、自責感や緊張が急激に高まったとします。

 

その後、自傷行為によって一時的に頭の中が静かになったのであれば、その行為は強い感情や思考を弱める働きをしています。

 

また別のケースでは、強いストレスのあとに感覚が麻痺し、自分が存在している実感が薄くなることがあります。

 

そのときに自傷行為によって感覚が戻ったのであれば、その行為は現実感を回復する働きをしています。

 

また、家庭や学校で追い詰められたときに、自傷行為をきっかけとして口論や要求が止まった場合には、耐えがたい状況から離れる働きを持つことがあります。

 

このように、同じ自傷行為に見えても、その方にとっての意味や機能は異なります。

 

また同じ人であっても、場面によって機能が変わることがあります。

 

そのため、「自傷する人はこういう人だ」「原因はこれだ」と一括りにすることはできません。

 

1-4.自傷行為を理解するための「強化」という視点

 

Nock & Prinstein(2004)の研究では、自傷行為を説明するために「強化」という行動心理学の用語が使われています。

 

強化とは、ある行動のあとに何らかの変化が起こり、その行動が将来も繰り返されやすくなることです。

 

ここでいう「正の強化」と「負の強化」は、良い・悪いという意味ではありません。

 

正の強化とは、行動のあとに何かが加わることです。


負の強化とは、行動のあとに不快なものが減ることです。

 

例えば、自傷行為のあとに強い不安が弱まった場合、不快な感情が減っているため、負の強化になります。

 

一方、何も感じられない状態から感覚や現実感が生まれた場合には、必要としていた感覚が加わっているため、正の強化になります。

 

この短期的な変化が強いほど、脳は「次につらくなったときも、この方法を使えば状況が変わる」と学習しやすくなります。

 

これが自傷行為を維持する要因となります。

 

1-5.なぜ自傷行為のあとに気分が落ち着くことがあるのか

 

自傷行為のあとに気持ちが落ち着いたと感じる仕組みについては、心理学的な学習だけでなく、神経心理学や神経生物学の観点からも研究されています。

 

ただし、現時点では、すべてを一つの神経伝達物質や脳部位だけで説明することはできず、そのためいくつかの仕組みが重なって、一時的な感情の変化が起きていると考えるのが適切です。

 

● 注意が強い感情から身体感覚へ移る

 

強い不安や怒り、自己否定、嫌な記憶などに圧倒されているとき、人の注意はその苦しさに強く固定されやすくなります。

 

その結果、「自分が悪い」「もう耐えられない」「この苦しさは終わらない」といった考えが頭の中を占め、同じ内容が何度も繰り返し浮かんでくることがあります。

 

この時に自傷行為による強い身体感覚が生じると、注意が感情や反芻思考(ぐるぐる思考)から、目の前の身体感覚へ急激に移る場合があります。

 

その結果、頭の中で続いていた考えが一時的に中断され、「頭が静かになった」と感じることがあります。

 

神経心理学的に見ると、これは感情や思考そのものが解決したというより、注意の配分が一時的に変化した状態です。

 

そのため、身体感覚が弱まったあとに、元の感情や問題が再び戻ってくることに繋がってしまいます。

 

● 「痛みが終わった瞬間」に安堵が生じる可能性

 

実験研究では、痛み刺激が終わった直後に、否定的な感情が弱まり、短時間ながら肯定的な感情が高まる現象が報告されています。

 

これは「痛み終了時の安堵」と呼ばれることがあります。

 

強い不快刺激が続いているとき、脳と身体は緊張した状態になります。

 

その刺激が終わると、「危険や苦痛が終わった」という変化そのものが、安堵として感じられることがあります。

 

自傷行為においても、この「苦痛が終わった瞬間の安堵」が、一時的に気分を変化させる可能性が考えられています。

 

● 内因性オピオイド系が関係するという仮説

 

自傷行為の神経生物学的な説明として、比較的よく取り上げられるのが、内因性オピオイド系です。

 

内因性オピオイドとは、βエンドルフィンなど、体内で作られる鎮痛や情動調整に関係する物質です。

 

痛みや強いストレスが生じたとき、身体は苦痛を和らげるために、内因性オピオイド系を働かせることがあります。

 

そのため、一部の研究者は、次のような可能性を考えています。

 

①自傷を繰り返す方の一部では、普段の内因性オピオイド系の働きに偏りがある


②強い身体刺激によって内因性オピオイド系が働く


③その作用によって、身体的な痛みだけでなく、心理的な苦痛も一時的に弱まる


④この短期的な安堵が、自傷行為の反復を強める

 

この説明は、自傷後に「感情が薄れた」「落ち着いた」「苦しさが遠のいた」と感じる現象と一致する部分があります。

 

● ストレス反応系の違いが関係する可能性

 

人がストレスを受けると、脳と身体では、視床下部・下垂体・副腎系、いわゆるHPA軸が働き、コルチゾールなどのホルモンが分泌されます。

 

自傷行為のある青年を対象にした一部の研究では、心理社会的なストレスに対するコルチゾール反応が弱い、つまりストレス反応が鈍くなっている可能性が報告されています。

 

ここから考えられるのは、慢性的なストレスや繰り返される強い感情によって、身体のストレス調整システムが通常とは異なる反応を示している可能性です。

 

このような違いが、強い感情への対処の難しさや、刺激を使って状態を変えようとする行動に関係している可能性があります。

 

● 感情調整と認知制御に関わる脳機能

 

自傷行為の神経生物学的研究では、脅威の検出、感情の反応、報酬学習、行動の抑制などに関わる脳機能が検討されています。

 

自傷行為のある方の一部では、否定的な感情に強く反応しやすく、いったん高まった感情を落ち着かせることが難しい傾向が報告されています。

 

また、対人関係における拒絶や批判に敏感で、強い感情に圧倒されると、行動に移す前に一度立ち止まって考える力が働きにくくなることがあります。

 

その結果、自傷行為によって得られる一時的な安堵が強い報酬として学習され、つらい状況で同じ行為が繰り返されやすくなる場合があります。

 

つまり簡単に言えば、感情を生み出す反応が非常に強い一方で、その感情を整理したり、行動を止めたりする働きが追いつきにくい状態が生じているということです。

 

● 神経生物学的な変化だけで自傷行為を説明しない

 

内因性オピオイド、コルチゾール、痛みの知覚、脳の感情調整機能などは、自傷行為の一部を説明する可能性があります。

 

しかし、自傷行為を「脳内物質の問題」とだけ考えるのは適切ではありません。

 

同じ身体反応があっても、自傷行為をする方としない方がいます。

 

また、自傷行為の背景には、対人関係、トラウマ、孤独、自己否定、解離、家庭環境、発達特性などが複雑に関係します。

 

神経生物学的な説明は、本人を責めないための理解には役立ちますが、本人の生活史や人間関係を無視する理由にはなりません。

 

そのため自傷行為は、心理的な学習、身体反応、社会的環境が重なって維持されていると考える必要があります。

 

1-6.自傷行為の機能1~つらい感情を弱める~

 

先述しましたように、自傷行為の理解は、「その行為によって何を得ているか」、つまり「自傷行為の機能」から考える必要がありす。

 

そのため以下では自傷行為の機能について考えていきたいと思います

 

一つ目は、本人の内側にある不快な感情や思考を弱める機能です。

 

背景には、強い不安が続いていたり、怒りが収まらなかったり、自己嫌悪や罪悪感に圧倒されていたりする状態がある場合があります。

 

また、嫌な記憶が頭の中で何度も繰り返されたり、自分を責める言葉が止まらなくなったりして、感情が大きくなりすぎ、耐えがたい状態になることもあります。

 

そのようなとき、自傷行為のあとに苦痛が一時的に弱まると、本人の中で「この方法を使えば、つらい感情を止められる」という学習が起こります。

 

その結果、次に同じような苦しさが生じたときにも、自傷行為が選ばれやすくなることがあります。

 

これは、当然ですが本人が苦しみを大げさに表現しているという意味ではありません。

 

他に使える感情調整の方法が十分に身についていない中で、自傷行為が即効性のある対処として機能している可能性があるんですね。

 

ただし、短期的に感情が下がっても、根本的な問題が解決するわけではありません。

 

行為のあとに罪悪感や自己嫌悪が強くなり、さらに苦しさが増すこともあります。

 

1-7.自傷行為の機能2~感覚や現実感を取り戻す~

 

二つ目は、何も感じられない状態から、感覚や現実感を取り戻す機能です。

 

強いストレスやトラウマ反応、解離、抑うつ状態などがあると、感情が麻痺したようになり、「何も感じない」「自分がここにいる感じがしない」「現実が遠く感じる」「頭の中が空っぽになっている」「生きている実感がない」と感じることがあります。

 

このような状態で自傷行為による強い身体感覚が生じると、麻痺していた感覚が一時的に戻り、自分が現実の中に存在しているという感覚を取り戻したように感じる場合があります。

 

この機能がある方に対して、ただ「落ち着きましょう」と伝えても、ご本人の必要としているものと合わない場合があります。

 

ご本人が求めているのは、感情を下げることではなく、安全な形で感覚や現実感を取り戻すことだからです。

 

そのため支援では、身体を適度に動かす、周囲に見える色や聞こえる音を確認する、足裏や椅子との接触感覚に注意を向ける、信頼できる人と会話するなど、安全な方法で現在の感覚を取り戻す選択肢を増やしていく必要性があります。

 

1-8.自傷行為の機能3~つらい状況や要求から離れる~

 

三つ目は、対人関係の中で生じているつらい状況や、強い要求から一時的に離れるための機能です。

 

例えば、学校や仕事に行くことを強く求められている、家族との口論が続いている、答えたくない質問を何度も受けている、責任や課題を抱えきれなくなっている、あるいはその場から離れたいのに言葉で伝えられない、といった状況が考えられます。

 

そのため自傷行為のあとに学校や仕事を休めたり、口論が止まったり、周囲からの要求が一時的に中断されたりすると、その行為が「これ以上耐えられない状況から離れる手段」として機能するようになる場合があります。

 

これは、ご本人が計算して周囲を操作しているという意味ではありません。

 

ご本人には「休ませてほしい」「これ以上は無理だ」「その話を止めてほしい」と伝える力や余裕がなく、自傷行為が結果的にその役割を担わせてしまっているのです。

 

そのため支援では、自傷行為をしなくても休憩を求められる方法、断る言葉、相談する相手、負担を調整する手順を具体的に作ることが重要です。

 

1-9.自傷行為の機能4~苦しさを伝え、支援を得る~

 

四つ目は、周囲に苦しさを伝え、配慮や支援を得る機能です。

 

この機能は、しばしば「注目を集めたいだけ」と誤解されます。

 

しかし、そのような捉え方はご本人の苦しさを軽視し、必要な支援から遠ざける危険があります。

 

人は本来的に、苦しいときには誰かに助けを求めようとします。

 

しかし、過去に苦しさを訴えても信じてもらえなかったり、弱音を吐いたことで責められたりした経験があると、言葉で支援を求めることが難しくなる場合があります。

 

また、自分が何を感じているのかわからない、何を頼めばよいのか整理できない、周囲に迷惑をかけてはいけないと考えている、言葉だけでは苦しさの深刻さが伝わらないと感じていることもあります。

 

その結果、自傷行為が、言葉にできない「これ以上は耐えられない」という苦しさを周囲に伝えるメッセージとして機能することがあります。

 

ここで必要なのは、行為を無視することでも、行為が起きるたびに周囲がすべてを引き受けることでもありません。

 

苦しさは真剣に受け止めながら、自傷行為以外の方法で助けを求める力を一緒に育てることが大切です。

 

1-10.四つの機能は一つだけとは限らない

 

自傷行為の機能は、一人につき一つとは限りません。

 

最初は強い不安を下げるために始まった行為が、その後、家族に苦しさを伝える役割も持つようになることがあります。

 

また、同じ人でも、ある日は怒りを弱めるため、別の日には何も感じない状態から抜け出すために行うことがあります。

 

つまり、「この人の自傷はこの理由」と一度決めたら終わりではありません。

 

そのため、自傷行為の前後に何が起きているのかを、その都度丁寧に見ていく必要があります。

 

1-11.自傷行為が繰り返される悪循環

 

自傷行為は、次のような流れで繰り返されることがあります。

 

まず、対人トラブル、失敗、孤独、過去の記憶などをきっかけに、強い感情や空虚感が生まれます。

 

次に、「この苦しさを止められない」「もう耐えられない」と感じます。

 

そして自傷行為が起きると、一時的に感情が弱まったり、感覚が戻ったり、周囲から支援を得られたりします。

 

すると脳は、「この行為をすると状態が変わる」と学習します。

 

しかし、その後に自己嫌悪、傷への不安、秘密を抱える苦しさ、人間関係の悪化などが起こり、再び強い感情が生まれます。

 

そして自傷行為へと至ってしまうというものです。

 

この悪循環を変えるには、自傷行為だけを取り上げて禁止するのではなく、行為の前にある苦しさと、行為のあとに得ている変化の両方を見る必要があります。

 

1-12.自傷行為を理解するための機能分析

 

心理的支援では、自傷行為だけを切り取って見るのではなく、行為の前、最中、後に何が起きていたのかを順番に整理します。

 

こうした流れを確認することで、自傷行為が本人にとってどのような役割を果たしているのかが見えやすくなります。

 

● 自傷行為の前に起きていたこと

 

まず、自傷行為の前に、誰と、どこで、何が起きていたのかを確認します。

 

対人関係での衝突や拒絶された感覚、仕事や学校での失敗、孤独感、嫌な記憶などがきっかけになっていることがあります。

 

その出来事によって、不安、怒り、悲しみ、恥、罪悪感、空虚感など、どのような感情が生じたのかも整理します。

 

あわせて、「自分が悪い」「もう耐えられない」「この苦しさは終わらない」といった考えや、過去の記憶が浮かんでいなかったかを確認します。

 

また、胸が苦しい、身体がこわばる、頭が真っ白になる、現実感が薄れるといった身体や意識の変化も重要です。

 

睡眠不足、疲労、空腹、飲酒などによって、感情や衝動を調整する力が弱まっていなかったかについても見ていきます。

 

● 自傷行為の最中に起きていたこと

 

次に、自傷行為の最中に、感情や思考がどのように変化していたのかを整理します。

 

まずは自傷衝動が突然強くなったのか、それとも時間をかけて徐々に高まったのかを確認します。

 

また、行為に向かう過程で、「これしか方法がない」「今すぐ苦しさを止めたい」と感じていたのか、あるいは深く考える余裕がないまま行動に移っていたのかも重要です。

 

そのとき、誰かに連絡する、その場から離れる、助けを求めるといった別の選択肢が思い浮かんだかも確認します。

 

選択肢は浮かんでいたものの実行できなかったのか、そもそも他の方法を考えられないほど圧倒されていたのかによって、必要な支援は変わります。

 

さらに、途中で行為を止めるきっかけがあったか、誰かの存在や連絡、環境の変化によって衝動が弱まったかを振り返ることも、今後の安全な対処を考える手がかりになります。

 

● 自傷行為の後に起きたこと

 

最後に、自傷行為の後に何が変わったのかを確認します。

 

張りつめていた不安や怒りが一時的に弱まったのか、頭の中の考えが静かになったのかを振り返ります。

 

反対に、何も感じられない空虚な状態から、身体感覚や現実感を取り戻したように感じる場合もあります。

 

また、自傷行為のあとに周囲の人がどのように反応したのか、つらい要求や対人場面が中断されたのか、誰かから心配や支援を得られたのかも重要です。

 

こうした変化が、自傷行為を繰り返しやすくする働きを持つことがあるためです。

 

一方で、行為のあとに自己嫌悪、罪悪感、後悔、傷を隠す負担、周囲に知られる不安などが強くなることもあります。

 

一時的には苦しさが弱まっても、その後に新しい苦しさが加わり、再び自傷衝動につながる場合があります。

 

このように、自傷行為の前・最中・後を一つの流れとして整理すると、その行為が感情を弱めるために起きているのか、現実感を取り戻すためなのか、つらい状況から離れるためなのか、苦しさを周囲に伝えるためなのかが見えやすくなります。

 

その機能を理解することが、自傷行為に代わる安全な対処法を考える出発点になります。

 

自傷行為への支援では、安全確保が最優先です。

 

しかし、ただ「二度としないと約束してください」と求めるだけでは、根本的な解決には繋がりません。

 

というのは、ご本人から自傷行為を取り上げても、その行為が担っていた機能は残っているからです。

 

強い感情を下げる機能があるなら、感情調整や苦痛耐性の方法が必要です。

 

何も感じない状態から抜け出す機能があるなら、安全に感覚や現実感を取り戻す方法が必要です。

 

つらい状況から離れる機能があるなら、休憩を求める言葉や環境調整が必要です。

 

助けを伝える機能があるなら、危機を言葉で伝える方法や連絡先を決める必要があります。

 

大切なのは、自傷行為とまったく同じ感覚を再現することではありません。

 

その行為が担っていた役割を、より安全な複数の方法に分けて置き換えていくことです。

 

1-13.周囲の人が避けたい対応

 

自傷行為を知ったとき、家族や周囲の人が強いショックや不安を感じるのは自然なことです。

 

しかし、「どうしてそんなことをするの」「家族の気持ちも考えて」「注目してほしいだけでしょう」と責めたり、「もう絶対にしないと約束して」と強く迫ったりすると、本人は苦しさを理解してもらえなかったと感じ、さらに孤立してしまう可能性があります。

 

また、「そんなことをしても何も解決しない」という言葉も、本人がすでに抱えている自己否定や罪悪感を強めることがあります。

 

まずは行為を批判するのではなく、そこまで追い詰められていた苦しさを受け止め、安全を確認することが大切です。

 

ご本人も、根本的な問題が解決していないことは理解している場合があります。

 

それでも、今のところ他に苦しさを調整する方法が見つからないため、繰り返している可能性が十分になります。

 

そのため、まずは「そこまで追い詰められていたこと」を受け止める必要があります。

 

そのうえで、「直前に何があったのか」「行為のあとに何が少し変わったのか」「次に同じ状態になったら、誰にどのように伝えられるか」を一緒に考えていきます。

 

1-14.安全を最優先に!

 

自傷行為があり、次のような状態がある場合にはセルフケアだけで対応しようとせず、医療機関や心理カウンセラーと言った専門家につながることが大切です。

 

最悪の選択肢に対する気持ちが強い


自分では衝動を止められない


行為が頻繁になっている


生命や身体に危険が及ぶ可能性がある


一人でいることが危険に感じられる


傷の状態に医療的な処置が必要である

 

自傷行為の機能を理解することと、安全性を軽く見ることは別です。理解と安全確保の両方が必要です。

 

そのため、まずは医療機関の支援を最優先事項にしてください。

 

まとめ

 

Nock & Prinstein(2004)の研究は、自傷行為を単なる問題行動としてではなく、何らかの機能を持つ行動として理解する視点を示しました。

 

自傷行為の主な機能は、次の四つです。

 

つらい感情を弱める。


何かを感じ、現実感を取り戻す。


つらい状況や要求から離れる。


苦しさを伝え、支援を得る。

 

自傷行為のあとに気分が変化する背景には、注意が感情から身体感覚へ移ること、痛みが終わったときの安堵、内因性オピオイド系、ストレス反応系などが関係する可能性があります。

 

ただし、これらは単独で自傷行為を説明するものではありません。

 

自傷行為を減らすためには、「なぜするのか」と責めるのではなく、「その行為によって何が変わったのか」を丁寧に見ることが大切です。

 

行為が担っている機能がわかれば、それに代わる安全な方法を考えやすくなります。

 

自傷行為は、今のご本人にとって、それ以外の方法を見つけにくいほど追い詰められている可能性を示すサインであるという視点から理解するようにしてくださいね。

 

よくある質問


Q1. 自傷行為は、なぜ一時的に気持ちを落ち着かせることがあるのですか?

 

自傷行為によって、強い不安、怒り、罪悪感、自責的な思考などが一時的に弱まることがあるためです。

 

この短期的な変化によって、「つらいときにはこの行為を使う」という学習が起こり、繰り返されやすくなります。

 

ただし、根本的な問題が解決するわけではなく、後から自己嫌悪や苦痛が強まることも珍しくありません。

 

Q2. 自傷行為は「周囲の注目を集めるため」なのでしょうか?

 

そのように一括りにすることはできません。

 

自傷行為には、強い感情を下げる、現実感を取り戻す、つらい状況から離れる、苦しさを伝えるなど、複数の機能があります。

 

周囲からの支援を求める機能がある場合も、それは単なる操作ではなく、言葉で助けを求めることが難しい状態の表れかもしれません。

 

Q3. 自傷行為と最悪の選択肢を取る行為は同じですか?

 

同じではありません。

 

最悪の選択肢を主な目的としない自傷は、非自殺性自傷と呼ばれます。

 

ただし、自傷行為をする人に最悪の選択肢のリスクがない、あるいは低いとは限りません。

 

意図は時期や状況によって変化するため、自傷行為がある場合には、安全性とリスクをその都度確認することが必要です。

 

Q4. 自傷行為をしている人に、家族はどのように声をかければよいですか?

 

まず、「やめなさい」と責めるよりも、「そこまで苦しい状態だったのだね」「今、死にたい気持ちはある?」「医療的な処置は必要?」と、安全と苦しさを確認することが大切です。

 

その後、直前に何があったのか、行為のあとに何が変わったのか、次に誰へ連絡できるかを一緒に考えます。

 

Q5. 自傷行為は心理カウンセリングで改善できますか?

 

改善を目指すことはできます。

 

カウンセリングでは、自傷行為の前後を整理し、その行為が果たしている機能を確認します。

 

そのうえで、感情調整、苦痛への対処、助けを求める方法、対人関係の調整、安全計画などを身につけていきます。

 

ただし、最悪の選択肢に対するリスクや身体的危険がある場合には、医療機関との連携が不可欠です。

 

参考文献

 

Nock, M. K., & Prinstein, M. J.(2004). A Functional Approach to the Assessment of Self-Mutilative Behavior. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 72(5), 885–890.

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この記事の執筆者

駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)

心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。

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