境界性パーソナリティ症とトラウマ~幼少期体験と感情調整の困難との関連~
2026/06/30
みなさん、こんにちは。
神戸や芦屋、西宮などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
境界性パーソナリティ症では、感情が急激に高まる、人間関係で見捨てられる不安が強くなる、自分を強く責める、衝動的な行動に移ってしまうといった困りごとが見られることがあります。
こうした状態の背景には、生まれ持った感情の反応しやすさ、対人関係の体験、子ども時代の傷つき、そして感情を整える力の育ちにくさが関係している場合が多くみられます。
結論から言うと、今回参考にした研究では、子ども時代の不適切な養育や虐待の中でも、特に「情緒的虐待」が境界性パーソナリティ症の特徴と一貫して関連していました。
また、その関連を理解するうえで、「感情調整困難」と「否定的感情に基づく否定的な自己評価」が重要であることが示されています。
ただし、これは「親のせいで必ず境界性パーソナリティ症になる」という意味ではありません。
また、境界性パーソナリティ症のある人全員に、明確な虐待体験があるという意味でもありません。
そのため、境界性パーソナリティ症と虐待を安易に結びつけるのは適切ではありません。
確かに「過去に何があったか」を検討することは大切ですが、さらに重要なのは「なぜ感情がここまで苦しくなるのか」「なぜ人間関係で強い不安が起きるのか」を理解し、回復につながる支援を考えることです。
そこでこのブログでは、境界性パーソナリティ症と感情調節困難についてシェアしたいと思います。
※本投稿は公認心理師としての一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の方の診断・治療を行うものでも効果を保証するものでもありません。
※気になる症状がある場合は、必ず医療機関等の専門機関にご相談ください。

1-1.この論文は何を調べたのか
恒例の論文解説をコンパクトにいたしますね。
今回取り上げる研究では、子ども時代の不適切な養育や虐待の種類が、境界性パーソナリティ症の特徴とどのように関連するのかを調査したものです。
さらに、その関連の中で、感情調整困難がどのような役割を持つのかも検討されました。
子ども時代の不適切な体験には、身体的虐待、性的虐待、情緒的虐待、身体的ネグレクト、情緒的ネグレクトなどがあります。
これまでの研究では、境界性パーソナリティ症と子ども時代のトラウマには関連があるとされてきました。
しかし、どの種類の体験がどのように関係するのか、また感情調整困難がその間にどのように関わるのかについては、さらに検討が必要でした。
この論文は、その点を整理しようとした研究です。
1-2.境界性パーソナリティ症とは何か
ここで、境界性パーソナリティ症(境界性パーソナリティ障害)をおさらいしたいと思います。
境界性パーソナリティ症は、感情、対人関係、自己イメージ、衝動性などが不安定になりやすい状態を生じさせます。
例えば相手の些細な反応から見捨てられる不安が強くなったり、怒りや悲しみが急激に高まってなかなか落ち着かなかったりする、というのが典型的な状態です。
また、自分には価値がないと感じやすく、相手を強く理想化したかと思えば、急に失望してしまうこともあります。
加えて感情に圧倒される中で衝動的な行動をとり、あとから後悔する場合もあります。
さらに、孤独感や空虚感が強くなり、自傷行為や最悪の選択肢を考えてしまうということが出ることもあるため、本人のつらさを丁寧に理解し、安全を確認しながら支援することが大切です。
1-3.感情調整困難とは何か
感情調整困難とは、感情があること自体を問題とするものではなく、感情に圧倒されて、うまく扱えなくなる状態を指します。
例えば不安や怒り、悲しみ、自己否定などが生じたときに、自分が何を感じているのかわからなかったり、その感情を受け止められずに強く否定してしまったりする、といったものです。
また、感情が高まると、仕事や勉強など本来取り組みたい行動ができなくなったり、怒りや不安に押されて衝動的に行動してしまったりする場合もあります。
そして気持ちを落ち着かせる方法が少なく、感情が静まるまでに時間がかかることも、感情調整困難の一つです。
境界性パーソナリティ症では、この感情調整困難が中心的な問題の一つになることが珍しくありません。
1-4.情緒的虐待とは何か
今回の研究で特に注目されたのは、情緒的虐待です。
情緒的虐待とは、身体的な暴力だけを指すのではなく、子どもの人格や感情を傷つける言葉や態度が繰り返されることを意味します。
例えば、「お前はだめだ」と繰り返し言われる、「いなければよかった」と存在を否定されるというものが臨床ではよく見られます。
また感情を表すとばかにされたり無視されたりする、苦しさを訴えても「大げさ」「わがまま」と扱われるといった体験です。
さらに失敗だけを強く責められて安心して相談できなかったり、愛情や承認が条件つきでしか与えられなかったりすることも含まれます。
子どもにとって、養育者は本来、安全を感じられる存在です。
その養育者から感情や存在を否定され続けると、「自分の感じ方は間違っている」「自分は大切にされる価値がない」という感覚が根づくリスクが高まります。
そのような環境では、感情を安心して表現し、受け止めてもらい、少しずつ落ち着いていく経験を積むことが難しくなります。
それが境界性パーソナリティ症と結びついてしまうのです。
1-5.なぜ情緒的虐待が感情調整に影響するのか
感情調整は、一人で自然に身につくものではありません。
子どもは、泣いたり怒ったり怖がったりしたときに、周囲の大人に受け止めてもらうことで、少しずつ感情の扱い方を学んでいきます。
例えば、「怖かったね」「怒るのも無理はないね」「でも今は安全だよ」と言葉をかけてもらうことで、子どもは自分の感情を理解し、落ち着かせる経験を積んでいきます。
しかし、感情を表すたびに否定されたり、ばかにされたり、怒られたりすると、子どもは感情を安全に扱う方法を学びにくくなります。
その結果、大人になってからも、自分の感情を恥ずかしいものだと感じたり、苦しくても助けを求められなかったり、相手に拒絶されたと強く感じたりすることがあります。
また、感情を抑え込みすぎた結果、ある時点で爆発してしまったり、自分を責めることで何とか状況を理解しようとしたりすることもあります。
このように、情緒的虐待は「感情をどう扱えばよいか」という心の土台に影響する可能性があるんですね。
1-6.「羞恥感」と否定的な自己評価
海外の論文や専門書を読むと、クライエントの抱えるしんどい感情の1つとして、よく「恥」や「羞恥心」という言葉が出てきます。
これは、日本人にはピンとこない表現ではないかと思います。
ここで言う羞恥感とは、単に「恥ずかしい」と感じることだけではありません。
「自分はだめな人間だ」「自分は嫌われる存在だ」「こんな自分を知られたら見捨てられる」「自分には価値がない」といったように、自分自身の存在そのものを否定的に評価する感覚、と解釈なさってください。
境界性パーソナリティ症では、その羞恥感(自己の存在を否定する感覚や感情)が対人関係の不安定さや強い自己否定と結びつくことがあります。
例えば、相手からの返信が少し遅れただけで、「自分は嫌われた」「やはり自分には価値がない」と感じてしまうことがあります。
この反応は、現在の出来事だけではなく、過去に繰り返し否定された経験が、現在の対人場面で強く反応している場合もあります。
1-7.親を責めるためではなく、回復の道筋を見つけるために
子ども時代の体験を扱うと、「結局、親が悪いということですか」と感じる方もいます。
確かに、幼少期の逆境体験が境界性パーソナリティ症の引き金になったというケースはあるでしょう。
また親に対して消化しきれないネガティブな感情で苦しんでいるかも大勢おられます。
当然、そうした感情は十分に尊重され、そしてケアされるべきものです。
しかし、境界性パーソナリティ症の回復という観点で考えた場合、誰かを責めることで回復につながるかと言えば、そうではありません。
もちろん、繰り返しになりますが虐待や否定的な関わりによって傷ついた事実は決して軽視されるべきではありません。
その一方で、過去の原因探しだけでは、現在の苦しさは十分に軽くならないこともあります。
大切なのは、過去の環境の中で身についた反応を、現在の生活に合う形へ少しずつ変えていくことです。
たとえば、感情が強くなると自分を責めてしまう、相手の反応を拒絶として受け取りやすい、助けを求める前に怒りや絶望から関係を切ってしまう、自分の感情を「迷惑」や「面倒なもの」と感じてしまうことがあります。
こうした反応は、過去には自分を守るために必要だったのかもしれません。
しかし、現在の人間関係では、かえって孤立や苦しさを強めてしまう場合があります。
そのため心理カウンセリングでは、その反応をより安全で柔軟な方法に置き換えていくことを重視します。
1-8.回復のためにできること
境界性パーソナリティ症や感情調整困難がある場合、回復には段階が必要です。
もっとも簡単なセルフケアの方法は以下の通りです。
まずは、自分の感情に名前をつけることから始めます。
「怒り」だけでなく、その下にある不安、寂しさ、恥ずかしさ、見捨てられる怖さに気づくことが役立ちます。
次に、感情が高まったときにすぐ行動へ移るのではなく、少しだけ間を作る練習をします。
深呼吸、身体感覚への注意、場所を変える、メモに書く、信頼できる人に短い言葉で伝えるなど、小さな方法を複数用意しておくことが大切です。
そして「自分はだめだ」という考えが出たときには、それを事実として扱うのではなく、「今、自己否定が強くなっている」と気づくことも助けになります。
感情をなくすことが目標ではありません。
そこを求めてしまうと、感情は簡単には無くならないので逆にツラさが強くなってしまう危険性があります。
それよりも感情があっても、自分や人間関係を壊さずに扱える方法を増やしていくことが回復の方向となります。
まとめ
今回の研究では、子ども時代の不適切な養育や虐待の中でも、情緒的虐待が境界性パーソナリティ症の特徴と特に一貫して関連していました。
また、感情調整困難は、子ども時代の傷つきと境界性パーソナリティ症の特徴との関連が説明されました。
さらに、自己否定に基づく否定的な自己評価も重要な要素として示されています。
つまり、境界性パーソナリティ症を理解するうえでは、「感情が激しい人」と見るだけでは不十分です。
その人が、どのような環境で感情を扱うことを学んできたのか。
自分の感情をどう受け止めているのか。
恥や自己否定が、対人関係にどのように影響しているのか。
こうした視点が必要です。
境界性パーソナリティ症は、過去の体験と現在の感情調整の難しさを理解し、安全な支援の中で少しずつ回復を目指すことが何よりも大切です。
よくある質問
Q1. 境界性パーソナリティ症は、親の育て方や虐待が原因なのでしょうか?
境界性パーソナリティ症と子ども時代の不適切な養育や虐待には、関連が示されている研究があります。
特に、感情や存在を否定されるような情緒的虐待は、感情調整の難しさや自己否定と結びつく可能性があります。
ただし、「親のせいで必ず境界性パーソナリティ症になる」という意味ではありません。
生まれ持った感情の反応しやすさ、家庭環境、対人関係、ストレス、発達特性など、複数の要因が関係します。
Q2. 情緒的虐待とは、どこからが情緒的虐待になるのですか?
情緒的虐待とは、身体的な暴力だけではなく、子どもの人格や感情を繰り返し傷つける関わりを指します。
例えば、「お前はだめだ」と否定される、感情を表すとばかにされる、苦しさを訴えても「大げさ」「わがまま」と扱われる、安心して相談できない状態が続くといった体験です。
ただし、過去の出来事を一人で判断するのは難しい場合もあります。
大切なのは、名称をつけることだけではなく、その体験が今の自己否定や対人不安にどう影響しているかを丁寧に理解することです。
Q3. なぜ相手の少しの反応で「嫌われた」と感じてしまうのでしょうか?
相手からの返信が遅い、表情がいつもと違う、声のトーンが冷たく感じるといった小さな変化でも、強い不安が起きることがあります。
これは、現在の出来事だけに反応しているのではなく、過去に否定されたり、感情を受け止めてもらえなかったりした経験が影響している場合があります。
「自分は嫌われる存在だ」「見捨てられるかもしれない」という否定的な自己評価が強くなると、相手の反応を拒絶として受け取りやすくなります。
Q4. 感情が激しくなる原因は何ですか?
感情が激しくなる背景には、生まれ持った感情の反応しやすさ、ストレスの蓄積、対人関係での不安、過去に感情を否定された体験など、複数の要因が関係します。
特に、子どもの頃に感情を受け止めてもらう経験が少ないと、自分の感情を理解したり、落ち着かせたりする方法を学びにくくなることがあります。
その結果、不安、怒り、悲しみ、自己否定が一気に高まり、冷静に考える前に衝動的な行動につながる場合があります。
感情が激しいことは感情を調整する力が育ちにくかった結果として理解することが大切です。
Q5. 境界性パーソナリティ症や感情調整困難は改善できますか?
改善を目指すことはできます。
まずは、自分の感情に名前をつけること、感情が高まったときにすぐ行動せず少し間を作ること、自分を責める考えを事実として扱わず「今、自己否定が強くなっている」と気づくことが大切です。
心理カウンセリングでは、感情調整、対人関係、自己否定、見捨てられ不安、過去の傷つきなどを段階的に扱います。
また自傷衝動や最悪の選択肢を考えてしまうという場合には、一人で抱え込まず、医療機関や専門機関につながることが重要です。
参考論文
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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