パニック症の「予期不安」を和らげるカウンセリングの進め方
2026/08/14
パニック症の「予期不安」を和らげるカウンセリングの進め方
みなさん、こんにちは。
神戸や芦屋、西宮などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
電車のドアが閉まる瞬間、心臓がドクンと鳴る。まだ何も起きていないのに、「また、あのときみたいになったらどうしよう」と全身がこわばる…。
カウンセリングルームでパニック症の方のお話を伺っていると、多くの方がこう口にされます。
「発作そのものより、発作を待っている時間のほうがずっとつらいんです」と。
実際、最後の発作から半年以上経っているのに、外出範囲は狭まる一方という方も珍しくありません。
ところが周囲からは「もう発作は出ていないんだから大丈夫でしょう」と言われ、その落差にさらに孤独を深めてしまうということも珍しくありません。
私が臨床で何度も目にしてきたのは、発作の回数ではなく、この予期不安こそが生活を縮こませているという現実でした。
先に結論をお伝えしますと、予期不安は「気にしないようにする」ことでは和らぎません。
むしろ、避けてきた身体感覚にあえて向き合い、「怖れていた結末は起きなかった」という新しい経験を積み重ねることが、現時点で最も裏づけのあるアプローチです。
72件の試験・4,064名を統合した成分ネットワークメタ分析(Pompoli et al., 2018)では、パニック症の認知行動療法(CBT)のなかでも内部感覚エクスポージャーと対面での実施が効果と受容性の両面で優れており、逆に筋弛緩法は効果が低い成分として位置づけられました。
そのためカウンセリングは「リラックスの練習」ではなく、「安全を理解しなおす」場といえまるでしょう。
そこで今回は、パニック症(パニック障害)に付随する予期不安と、パニック症に対する心理療法(認知行動療法、ACT)をシェアしたいと思います。
※本記事は、公認心理師として一般的な情報を提供するものであり、特定の方の診断や治療、効果を保証するものではありません。症状によって生活に大きな支障が出ている場合は、精神科・心療内科などの医療機関にご相談ください。
1:予期不安とは何か
予期不安とは、パニック発作そのものではなく、「また発作が起きるのではないか」という発作と発作のあいだに続く不安を指します。
具体的には動悸・息苦しさ・めまいといった身体感覚を「心臓発作かもしれない」「気を失うかもしれない」と破局的に解釈する傾向(不安感受性)が背景にあり、その解釈が身体反応をさらに強めるという悪循環をつくります。
2:なぜ予期不安は自然に消えないのか
ここで重要なのが安全行動と回避です。
「発作が起きそうだから急行には乗らない」「水と薬を必ず持ち歩く」「出口の近くに座る」…。
どれも短期的には不安を下げてくれますが、長期的には「あれをしたから助かった」という誤った因果関係を強化してしまいます。
その結果として、「自分は何もしなければ危険だ」という信念は検証されないまま温存されてしまいます。
曝露療法の学習理論を整理したCraskeら(2014)は、この点をより明確にしました。
従来は「不安が下がるまで待つ(馴化)」ことが重視されてきましたが、セッション中に不安が下がった程度は、後の再発を予測しないことが示されています。
つまり鍵になるのは不安の低下ではなく、期待違反、具体的には「起きると思っていたことが、実際には起きなかった」という体験のズレです。
このズレがパニック症の改善においては必要となってきます。
しかし安全行動は、このズレの体験を邪魔してしまいます。
3:カウンセリングの進め方
ではパニック症に対する心理療法法の進め方を概観していきたいと思います。
(1)アセスメントと心理教育
まず、いつ・どこで・どんな身体感覚が引き金になり、どんな解釈が浮かび、その結果どう行動したかを丁寧に整理します。
そのうえで、パニック発作が生命を脅かすものではないこと、身体感覚と解釈と行動がどう循環しているかを共有します。
ここで「あなたの体に起きていることには説明がつく」と腑に落ちる方は多く、それ自体が予期不安を少し緩めてくれることも珍しくありません。
(2)破局的解釈の検討
「動悸=心臓発作の前触れ」という結びつきを、根拠と反証の両面から一緒に検討します。
ただし、頭で納得することと、身体が納得することは別です。
ここで止まると再発しやすいというのが、臨床上の実感です。
そのため、この段階は納得感が得られるように支援する事となります。
(3)内部感覚エクスポージャー
そこで中心になるのが、あえて恐れている身体感覚を意図的に起こす練習です。
過呼吸を短時間再現する、その場で足踏みをして心拍を上げる、椅子で回転してめまいを起こす、といった課題を、安全に配慮しながら段階的に行います。
ポイントは「不安が消えるまで耐える」ことではなく、「起きると予想したこと」を事前に言語化し、実際の結果と照合することです。
「1分で気を失うと思った」→「めまいはしたが失神しなかった」。このズレの記録が、予期不安を削っていきます。
ただ注意していただきたいのは、自己流で実施して不快な体験をするということがあると、かえって回避を強めるリスクが高まるということです。
そのため、内部感覚エクスポージャーという身体感覚をあえて起こす練習は、心理カウンセラーの同席のもと、段階的におこなうことになります。
(4)安全行動を少しずつ手放す
薬を握りしめる、窓の外を見続ける、といった行動は、ご本人も気づかないまま続いていることがあります。
しかし安全行動の全てを一度に外す必要はありません。
「今日は水筒を持たずに一駅だけ」といったスモールステップで、ご本人が納得できるペースを一緒に決めます。
(5)ACTの視点~不安をなくすことを目標にしない~
一方で、「不安をゼロにする」を目標にすると、それ自体が新たなコントロール方略になり、かえって苦しくなる方もおられます。
そのためACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)では、不安を消すことではなく、不安を抱えたままでも自分の大切にしたいこと(価値)に沿って動けることを目指します。
近年は、ACTに内部感覚エクスポージャーを組み込んだプログラムの無作為化比較試験(Bäckman et al., 2026)も報告されており、両者は対立するものではなく、組み合わせて用いうるものです。
4:進め方で気をつけていること
認知行動療法もACTも「マニュアル通りにやればよい」というものではありません。
Glosterら(2011)の369名を対象とした大規模試験では、心理カウンセラーが同行する形の実地曝露とそうでない形とが比較され、曝露をどう実施するかという運用面が結果に関わりうることが示されました。
つまり、課題の設定と伴走の仕方そのものが治療的な意味を持つのです。
私自身も、本人が「これならやってみたい」と思える課題まで難易度を落とすことを、何より優先しています。
なお、パニック症と似た症状を示す身体疾患(甲状腺機能異常、不整脈など)もあります。
まだ医療機関を受診されていない場合は、まず内科・心療内科での鑑別をおすすめしています。
よくある質問
Q1. 予期不安はカウンセリングでどのくらいの期間で変わりますか?
個人差が大きく、一概には言えません。
パニック症の認知行動療法は12回前後の構成で実施される研究が多く、それが一つの目安になります。
ただし回数より、練習を日常に持ち帰れているかどうかが結果を左右します。
Q2. 呼吸法やリラクセーションは意味がないのですか?
「意味がない」わけではありませんが、Pompoli et al.(2018)では筋弛緩法のようなリラクゼーション法は効果の低い成分とされ、また呼吸再訓練は受け入れやすさを高める一方で効果への寄与は小さいと報告されました。
また発作を止めるための道具として使うと安全行動になりやすい点に注意が必要です。
Q3. 薬は飲みながらカウンセリングを受けてもよいですか?
問題ありません。
服薬の調整は主治医の判断領域ですので、勝手に減薬・中断せず、必要に応じてカウンセラーと主治医が連携する形が望ましいといえるでしょう。
Q4. エクスポージャーが怖くてできそうにありません。
無理に大きな課題から始めることはしません。
「怖い」と感じるのは自然な反応です。
まずは心理教育と課題設計の段階で十分に時間をかけ、ご本人が選べる形で進めていきます。
Q5. 発作が出ていないのに、通う意味はありますか?
むしろそこが本題です。
発作が減っても回避が残っていれば生活の幅は戻らず、再燃のリスクも残ります。
参考文献
Pompoli, A., Furukawa, T. A., Efthimiou, O., Imai, H., Tajika, A., & Salanti, G. (2018). Dismantling cognitive-behaviour therapy for panic disorder: a systematic review and component network meta-analysis. Psychological Medicine, 48(12), 1945–1953.
Craske, M. G., Treanor, M., Conway, C. C., Zbozinek, T., & Vervliet, B. (2014). Maximizing exposure therapy: An inhibitory learning approach. Behaviour Research and Therapy, 58, 10–23.
Pompoli, A., Furukawa, T. A., Imai, H., Tajika, A., Efthimiou, O., & Salanti, G. (2016). Psychological therapies for panic disorder with or without agoraphobia in adults: a network meta-analysis. Cochrane Database of Systematic Reviews, 4, CD011004.
Gloster, A. T., Wittchen, H.-U., Einsle, F., Lang, T., Helbig-Lang, S., Fydrich, T., et al. (2011). Psychological treatment for panic disorder with agoraphobia: A randomized controlled trial to examine the role of therapist-guided exposure in situ in CBT. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 79(3), 406–420.
Craske, M. G., Rowe, M., Lewin, M., & Noriega-Dimitri, R. (1997). Interoceptive exposure versus breathing retraining within cognitive-behavioural therapy for panic disorder with agoraphobia. British Journal of Clinical Psychology, 36(1), 85–99.
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こころのケア心理カウンセリングRoom
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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