親から受けた心理的虐待の影響とは?:心理的虐待・情緒的ネグレクトの影響について
2026/08/13
親から受けた心理的虐待の影響とは:心理的虐待・情緒的ネグレクトの影響とは
心理カウンセリングを行っていると、現在のうつや不安、人間関係のしんどさについてお話を伺っていく中で、子どもの頃の家庭環境が重要なテーマになることがあります。
これは殴られたり、食事を与えられなかったりした経験だけではありません。
親から繰り返し否定されたり、馬鹿にされたり、失敗すると強く責められたり、自分の気持ちに関心を向けてもらえなかったりした経験も含みます。
研究では、子どもの頃の心理的虐待や情緒的ネグレクトは、成人後のさまざまなメンタルヘルス上の問題と関連していることが示されています。
Xiaoらのシステマティックレビューとメタ分析でも、うつ、不安、自殺念慮や最悪の選択肢を考える、物質使用、摂食障害、パーソナリティ障害など、幅広い心理的問題との関連が報告されています。
ただし、ここで大切なのは、子どもの頃につらい経験があったから、将来必ず心の病気になるという意味ではないことです。
そのため過去を「原因」と決めつけるのではなく、今抱えている苦しさを理解するための一つの手がかりとして考えていくことが大切です。
とはいえ、幼少期の虐待は、大人になった以降も大きく暗い影を落とします。
そこで今回は心理的虐待・情緒的ネグレクトに焦点を絞って、その影響を検討したいと思います。
1:心理的虐待とは、どのようなものか
Xiaoらは、子どもへの心理的な不適切な関わりを、大きく「情緒的虐待」と「情緒的ネグレクト」に分けています。
情緒的虐待とは、子どもを馬鹿にしたり、否定したり、人前で恥をかかせたり、怖がらせたり、意図的に無視したり孤立させたりするような関わりです。
一方、情緒的ネグレクトとは、子どもが必要としている愛情や温かさ、関心などが十分に与えられない状態を指します。
例えば、子どもの気持ちにほとんど関心を示さない、褒めたり励ましたりすることがほとんどない、必要なときにも心理的な支えが得られないといった状態です。
特に情緒的ネグレクトは分かりにくいものです。
というのは、何か「された」というより、本来必要だったものが与えられなかった経験だからです。
また、この論文では心理的虐待を、一度の出来事だけではなく、子どもの健全な心理的発達を損なうような養育者との関係のパターンとして捉えています。
そのため、親から一度怒鳴られた経験があるからといって、直ちに心理的虐待と判断するものではありません。
大切なのは、どのような関わりが、どの程度、どのように繰り返されていたのかということです。
2:大人になってからの心にも関連する
Xiaoらは、研究において合計132,082人のデータを検討しました。
その結果、子どもの頃の情緒的虐待や情緒的ネグレクトは、成人後のうつ、不安、最悪の選択肢に関連する考えや行動、物質使用、摂食障害、パーソナリティ障害、その他の心理症状などと関連していました。
また、精神疾患などによって治療を受けている集団では、そうでない集団よりも、子どもの頃の情緒的虐待や情緒的ネグレクトを経験していた割合が高い傾向も確認されています。
さらに、うつや不安、最悪の選択肢など十分な研究数が得られた領域について行われたメタ分析でも関連が示されました。
これは、身体的な暴力がなかったとしても、子どもの頃の人間関係の中で受けた心理的な傷を軽く考えるべきではないことを示しています。
3:「昔のことなのに、なぜ今も苦しいのか」と責めなくてよい
大人になってから生きづらさを感じている方の中には、「もう何年も前のことなのに、いつまでも気にしている自分がおかしいのではないか」と考える方もおられます。
しかし、子どもにとって養育者との関係は、単なる一つの人間関係ではありません。
安心できるのか、自分の気持ちを表してよいのか、自分には価値があるのか、人を信じてもよいのかといったことを学んでいく、とても重要な環境でもあります。
その中で長期間傷つく経験をしてきたのであれば、大人になったからといって、その影響が自動的になくならないことは不思議なことではありません。
そのため心理カウンセリングでは、現在の問題だけを見るのではなく、必要に応じて「どのような経験の中で、現在の感じ方や人との関わり方が作られてきたのか」を検討することがあります。
ただし、ここでも注意が必要です。
現在抱えているすべての問題を親や過去の経験だけで説明してしまうことは、適切ではないということです。
確かに情緒的虐待や情緒的ネグレクトは将来において心の問題を引き起こすリスクを大きなものにしてしまいます。
そのため、心理臨床において幼少期や成育歴に何があったかというテーマは重要です。
しかし、「心の病=幼少期や成育歴の影響があった」と簡単な図式で表すことはできません。
なぜなら、幼少期や成育歴が良好であっても心の病を発症することは決して珍しくないからです。
また今回の研究で最も誤解して頂きたくないのは、「心理的虐待を受けた人は、大人になっても心の問題を抱え続ける」という意味ではないことです。
つまり、子供の頃に情緒的虐待やネグレクトがあったからと言って、大人になった後に回復できないという意味では決してありません。
そのため、過去の経験を振り返る意味は、過去に人生を支配させるためではなく、現在の苦しさを理解し、これから違う選択をするためにあります。
ただし、これは幼少期の情緒的虐待や情緒的ネグレクトの影響を過小評価するものでは決してありません。
先述しましたように、幼少期や成育歴でのこうした経験は心の病だけでなく、パーソナリティ形成に重大な影響を与えます。
そのため心理臨床では、現在のしんどさを維持している要因に幼少期や成育歴の問題がないかどうかを慎重に検討することになります。
というのは、それによって心理的支援の方向が大きく変わってくるからです。
4:心理カウンセリングでは「何があったか」だけを扱うわけではない
子どもの頃の体験を扱う心理カウンセリングというと、過去を詳しく思い出したり、親との出来事を何度も振り返ったりするイメージを持たれるかもしれません。
しかし、重要なのは過去を掘り下げることそのものではありません。
例えば現在…
✔「失敗すると強く自分を責めてしまう」
✔「相手から嫌われることがとても怖い」
✔「自分の気持ちよりも相手を優先してしまう」
✔「人から褒められても受け取ることができない」
…といった問題があるのであれば、それがどのように維持されているのかを考え、現在の生活の中で少しずつ新しい考え方や関わり方を作っていくことが大切です。
残念ながら過去を変えることはできません。
しかし、過去の経験から作られた現在のパターンは、これからの経験によって変えていく余地があります。
子どもの頃に十分に大切にされなかった経験があるからこそ、これからは自分自身の気持ちを大切にすること、人との間に安心できる関係を作ること、自分を必要以上に責めないことを理解していきます。
その上で、現在のしんどさを軽減する方法を検討し適切な心理的支援を提供する事となります。
よくある質問
Q.親から否定されて育ったことも心理的虐待になりますか?
状況によります。
一度否定されたという出来事だけで判断することはできません。
研究では、繰り返し馬鹿にする、恥をかかせる、怖がらせる、無視するなど、子どもの心理的発達を損なうような関係のパターンとして心理的虐待が捉えられています。
Q.情緒的ネグレクトとは何ですか?
親から必要な心理的な関心や温かさ、支えなどを十分に受けられなかった状態を指します。
虐待のように「何かをされた」という経験がないため、ご本人自身も気づきにくいことがあります。
Q.子どもの頃の心理的虐待が原因で、うつ病になるのでしょうか?
今回の研究では、心理的虐待とうつなどとの「関連」が確認されていますが、一人ひとりのうつ病について直接的な原因を特定できるものではありません。
メンタルヘルスの問題にはさまざまな要因が関係するため、過去の経験だけで説明しないことも重要です。
Q.昔のことを思い出さないほうがよいのでしょうか?
無理に思い出す必要はありません。
現在の生活にどのような困りごとがあり、その問題に過去の経験がどの程度関係しているのかを確認しながら扱っていくことが大切です。
Q.大人になってからでも、子どもの頃の影響は改善できますか?
過去そのものを変えることはできませんが、現在の考え方、人との関わり方、自分自身への接し方などは変えていくことができます。
大切なのは「過去を消すこと」ではなく、過去の経験に現在の生活を必要以上に左右されない状態を作っていくことです。
参考文献
----------------------------------------------------------------------
こころのケア心理カウンセリングRoom
兵庫県芦屋市浜芦屋町1-27 サニーコート浜芦屋302号
電話番号 : 090-5978-1871
----------------------------------------------------------------------
この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
プロフィールはこちら


