子どもの頃の心理的虐待は「感情の扱い方」に影響する?研究から考える大人になってからの生きづらさ
2026/08/18
子どもの頃の心理的虐待は「感情の扱い方」に影響する?研究から考える大人になってからの生きづらさ
1:子どもの頃の経験と「感情をうまく扱えない」という悩み
カウンセリングを希望される方の中で、自分自身の感情を上手く扱えないという深い悩みを抱えておられる方も珍しくありません。
こうした問題についてお話を伺っていくと、現在のストレスだけではなく、子どもの頃から自分の気持ちを否定されたり、傷つく言葉を繰り返し浴びせられたり、怒りや悲しみを表現することが許されなかったりした経験が関係している場合があります。
もちろん、感情をうまく扱えない原因をすべて子どもの頃の家庭環境で説明することはできません。
しかし、2026年に『Clinical Psychology Review』に掲載されたAmini-Tehraniらのメタ分析では、子どもの頃に情緒的虐待を経験した程度が高いほど、大人になってからも感情を避けたり、受け入れにくかったりする傾向と関連することが示されています。
つまり、現在の「感情との付き合いにくさ」を単なる性格として捉えるのではなく、これまでの経験の中で身につけてきた感情への対処方法として理解できる場合があるということです。
そこで今回は、成育歴の中で、いわゆる「毒親」から受けた影響が大人になってからどのような影響を与えるのかを、深堀していきたいと思います。
2:心理的虐待とは何か
今回の研究で扱われている「childhood emotional abuse(子ども時代の情緒的虐待)」は、殴る、蹴るといった身体的な虐待とは異なります。
研究では、養育者から拒絶される、怖がらされる、孤立させられる、心理的に利用される、必要な感情的応答が得られないといった、身体的ではない不適切な関わりが含まれています。
例えば、何をしても否定される、失敗すると人格まで責められる、馬鹿にされる、脅される、感情を表現するとさらに怒られるといった環境が長く続けば、子どもにとって自分の感情そのものが「危険なもの」になってしまうことがあります。
ここで重要なのは、一度親から怒られた、厳しいことを言われたというだけで心理的虐待と判断するわけではないことです。
つまり、どのような関わりが、どの程度、どのように繰り返されていたのかを丁寧に考える必要があります。
3:そもそも「感情調整」とは何か
感情調整というと、「怒らないようにする」「悲しまないようにする」といった、感情を抑えることを想像されるかもしれません。
しかし、心理学でいう感情調整はもっと広い概念です。
自分が何を感じているのかに気づくこと、その感情を理解すること、不快な感情があってもある程度耐えること、感情に流されず行動を選ぶこと、必要に応じて考え方や行動を変えることなどが含まれます。
Amini-Tehraniらは、苦痛への耐性、感情への気づき、感情の受容、感情の明確さ、衝動のコントロールに加えて、回避、気晴らし、体験の回避、感情表現の抑制、捉え直し、反すうなど、感情調整の幅広い側面を検討しました。
4:124の研究サンプルをまとめると何が分かったのか
ここで、今回参照にした研究結果について軽く触れますね。
この研究は、一つの調査だけを分析したものではなく、最終的には124の独立した研究サンプル、308の効果量を統合したメタ分析がなされました。
そのため、幼少期の情緒的虐待と成人後の感情調整について、これまで蓄積されてきた研究をまとめて検討した研究といえます。
特に注目されるのが、大きく二つの傾向です。
一つは、不快な感情や体験を避けようとする傾向です。
複数の感情調整方略をまとめた分析では、子どもの頃の情緒的虐待歴と回避的な感情調整との間に r=.32の関連がみられました。
もう一つは、感情を受け入れにくい、感情に耐えにくい、自分が何を感じているのか整理しにくいといった、感情そのものを否定的・嫌悪的に経験する傾向です。
こちらには r=.24の関連が示されました。
r=.32やr=.24という数値は、子どもの頃の情緒的虐待と成人後の感情調整の難しさとの間に、弱いものから中程度の関連があることを示しています。
これらは非常に強い関連という意味ではありません。
また、研究ごとの差もかなり大きくありました。
したがって、「心理的虐待を経験すると必ず感情調整が苦手になる」という単純な結論ではありません。
しかし重要なのは、両者の間に無視できない関連があることが、多数の研究を統合しても確認されたという点です。
5:「感情を感じたくない」と思うようになることも
この研究結果を臨床的に考えるうえで、特に重要だと思うのが「回避」です。
例えば、不安を感じるとすぐにその場から逃げる、嫌な記憶が浮かぶと別のことをして考えないようにする、悲しみや怒りが出てくると「こんなことを感じてはいけない」と抑え込むといった対応です。
心理学では、自分の中に起こった不快な考えや感情、記憶、身体感覚などを消したり避けたりしようとすることを「体験の回避」と呼ぶことがあります。
子どもの頃、感情を表すことでさらに傷つけられる環境にいたのであれば、感情を出さないことや、自分の気持ちから距離を取ることが、その時点では自分を守る方法だった可能性があります。
ところが大人になって環境が変わっても、「嫌な感情はすぐになくさなければならない」という対応が続けば、不安や怒り、悲しみと付き合うことが難しくなる場合があります。
今回の研究も、情緒的虐待歴のある成人では、こうした感情に対する回避的な傾向に注目する必要があることを示唆しています。
6:「考えすぎてしまう」ことも感情調整と関係がみられる
もう一つ注意したいのが、つらい出来事を何度も考え続ける「反すう(ぐるぐる思考)」です。
✔「なぜあんなことを言ってしまったのだろう」
✔「どうして自分はこうなのだろう」
✔「あの人は本当は自分を嫌っているのではないか」
このように、一つの問題について繰り返し考え続けても、必ずしも解決にはつながりません。
この研究でも、反すうは検討された重要な感情調整方略の一つであり、著者らは、感情を避けようとする傾向と同時に、ネガティブな考えに過剰にとらわれることにも臨床的に注目する必要があるとしています。
つまり、一見すると矛盾しているようですが、感情から逃げようとしながら、その感情について頭の中では考え続けてしまうことがあるのです。
7:大切なのは「感情をなくすこと」ではない
では、子どもの頃の影響がある場合、どうすればよいのでしょうか。
私の専門とする心理療法においては、怒りや不安、悲しみを「感じないようにする」ことだけを改善するという目標にするべきではないという立場です。
むしろ…
✔「今、自分は何を感じているのか」
✔「この感情があっても、すぐに消そうとしなくてよいだろうか」
✔「この気持ちに従うことと、この気持ちが存在することを認めることは別ではないか」
…といった形で、少しずつ感情との関係を変えていくことが大切です。
今回の研究でも著者らは、情緒的虐待歴のある人への支援では、ネガティブな感情への過剰なとらわれと、感情を嫌悪し回避する傾向に焦点を当てることが、臨床的に重要である可能性を指摘しています。
8:大人になってからでも、感情との付き合い方は変化しうる
子どもの頃に心理的虐待を受けた経験があると、その影響が大人になってからも残ることがあります。
しかし、幼少期の経験によって、その後の人生や感情との付き合い方がすべて決まってしまうわけではありません。
例えば、子どもの頃に感情を表すことで否定されたり、責められたりしてきた人は、つらい気持ちを抑えたり、感情そのものを避けたりすることで自分を守ってきたのかもしれません。
それは、その当時を生きていくために必要だった対処だった可能性があります。
ただ、大人になって環境が変われば、その対処方法が今の自分には合わなくなっていることもあります。
なぜ不安や怒りを強く怖がるのか、なぜ嫌な気持ちになると、すぐにそこから逃れたくなるのか、なぜ一つの出来事を何度も考え続けてしまうのか…。
こうした自分の感情との付き合い方を理解していくことで、これまで無意識に繰り返してきた反応にも少しずつ気づけるようになります。
そして、その気づきは、これまで身につけてきた感情への対処方法を、現在の自分に合ったものへ変えていくための出発点になります。
過去に起きた出来事そのものをなかったことにはできません。
しかし、その経験によって身についた考え方や感情への向き合い方、人との関わり方は、大人になってからでも見直していくことができます。
心理カウンセリングでも、過去の出来事を振り返ることだけを目的とするのではなく、「その経験が今の自分にどのような影響を与えているのか」を理解しながら、これから自分の感情とどのように付き合い、どのような人生を送りたいのかを一緒に考えていくことが大切になってきます。
よくある質問
Q.親から怒られたり否定されたりした経験があれば、心理的虐待なのでしょうか?
一つの出来事だけで判断することはできません。
今回の研究で扱われる情緒的虐待には、拒絶、威嚇、孤立などの非身体的な不適切な関わりが含まれますが、どのような関わりがどの程度繰り返されていたのかを含めて考える必要があります。
Q.感情調整が苦手とは、怒りっぽいという意味ですか?
それだけではありません。
感情に気づきにくい、何を感じているのか分からない、不快な感情を受け入れられない、感情に圧倒されると衝動的に行動する、嫌な感情を避けようとする、同じことを考え続けるといった幅広い問題が含まれます。
Q.嫌な感情を避けることは悪いことなのでしょうか?
必ずしもそうではありません。
一時的に気持ちから距離を取ることが役立つ場面も多々あります。
問題になるのは、感情を避けることが唯一の方法になり、それによって生活や人間関係で困るようになっている場合です。
Q.子どもの頃の心理的虐待が原因で、現在の生きづらさがあるのでしょうか?
今回のメタ分析から因果関係を単純に判断することは妥当ではありません。
情緒的虐待歴と成人後の感情調整との関連は示されていますが、現在の心理状態にはさまざまな要因が関係していることには注意が必要です。
Q.大人になってからでも感情との付き合い方は変えられますか?
この研究の著者らは、情緒的虐待歴のある人への支援では、感情を嫌悪・回避する傾向や、ネガティブな考えへの過剰なとらわれに焦点を当てることが重要である可能性を指摘しています。
参考文献
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こころのケア心理カウンセリングRoom
兵庫県芦屋市浜芦屋町1-27 サニーコート浜芦屋302号
電話番号 : 090-5978-1871
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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