境界性パーソナリティ症は改善する?16年間の追跡研究から分かった長期的な回復
2026/08/20
境界性パーソナリティ障害は改善する?16年間の追跡研究から分かった長期的な回復
1.境界性パーソナリティ症は「ずっとこのまま」なのでしょうか?
境界性パーソナリティ症(境界性パーソナリティ障害/BPD)について、「性格の問題だから変わらない」「一生このままなのではないか」と不安を感じている方は少なくありません。
見捨てられることへの強い不安、感情の激しい揺れ、衝動的な行動、不安定な人間関係などが何度も繰り返されると、ご本人だけでなく周囲の方も、「これは性格そのものだから変わらないのではないか」と感じてしまうことがあります。
しかし、長期的な研究から見えてくる境界性パーソナリティ症の経過は、それほど悲観的なものではありません。
Zanariniらが境界性パーソナリティ症の方を16年間追跡した研究では、多くの人が長期間にわたって、境界性パーソナリティ症の診断基準を満たさない「症状寛解」を経験していました。
一方で、もう一つ重要なことも分かっています。
症状が落ち着くことと、仕事や人間関係を含めて生活全体が安定することは、必ずしも同じではありません。
つまり、境界性パーソナリティ症では長期的な改善が十分に期待できる一方で、回復を「症状がなくなること」だけで考えないことも大切なのです。
今回は、16年間にわたる追跡研究を手がかりに、境界性パーソナリティ症からの「寛解」と「回復」について詳しくみていきたいと思います。
2.境界性パーソナリティ症を16年間追跡した研究
今回取り上げるのは、Zanariniらが2012年に『American Journal of Psychiatry』で発表した研究です。
研究では、当初入院治療を受けていた境界性パーソナリティ症の方290人と、その他のパーソナリティ症を持つ72人を対象として、2年ごとに状態を確認しながら、合計16年間にわたって経過を追跡しました。
この研究の大きな特徴は、「一時的に症状が良くなったか」だけを調べたものではないことです。
つまり良い状態が、2年間、4年間、6年間、8年間と長期間続いたかどうかまで調べています。
その結果、境界性パーソナリティ症に対して「慢性的で変わりにくい」というイメージを持っている方にとっては、かなり意外な結果が示されました。
3.99%が2年以上、78%が8年以上の「症状寛解」を経験していた
16年間の追跡期間中に、境界性パーソナリティ症の方が症状寛解を経験した割合は、次の通りでした。
2年以上の寛解:99%
4年以上の寛解:95%
6年以上の寛解:90%
8年以上の寛解:78%
ここでいう「寛解」とは、境界性パーソナリティ症の症状が完全になくなることではありません。
症状が十分に改善し、境界性パーソナリティ症や他のパーソナリティ症の診断基準を満たさない状態が、一定期間続いていることを意味しています。
特に注目したいのは、単に「一時的に良くなった人が多かった」という結果ではないことです。
約8割の人が、8年間という長い期間にわたる症状寛解を経験していました。
この結果から考えると、「境界性パーソナリティ症になったら、一生同じ症状が続く」と考えることは適切ではないことが分かります。
つまり、境界性パーソナリティ症の症状は長期的に変化し、多くの人が診断基準を満たさない状態まで改善していく可能性があります。
ただし「16年後に99%が寛解していた」という意味ではありません
ここには一つ、大切な注意点があります。
「99%が2年以上寛解した」という数字は、16年後の時点で99%の人が寛解していたという意味ではありません。
16年間の追跡期間のどこかで、少なくとも一度、2年以上続く寛解状態を経験した人の割合が99%だったということです。
そのため、この研究を「境界性パーソナリティ症の99%が治る」と単純に解釈することはできません。
それでも、ほとんどの人が長期的な症状改善を経験していたという事実は、非常に重要です。
4.一度良くなっても、また悪くなる可能性はある?
症状が改善したとしても、「また以前の状態に戻ってしまうのではないか」と不安になる方もおられるでしょう。
この研究では、一度寛解した後に再びパーソナリティ症の診断基準を満たすようになる割合についても調べています。
結果は…
2年間の寛解後:36%
4年間の寛解後:25%
6年間の寛解後:19%
8年間の寛解後:10%
…というものでした。
つまり、寛解した直後の数年間には再び症状が強くなる方もおられるんですね。
しかし同時に、良い状態が長期間続くほど、その後再び診断基準を満たす状態になる割合は低くなっていました。
8年間寛解が続いた人では、その後再び診断基準を満たした割合は10%でした。
もちろん、これは「長く安定すれば絶対に悪くならない」という意味ではありません。
しかし、「一度良くなっても、どうせまた元に戻る」と考えるべきでもありません。
というのは安定して過ごせる期間を少しずつ積み重ねていくこと自体に、大きな意味があるからです。
5.「症状の寛解」と「回復」は同じではない
この研究で非常に重要なのが、研究者たちが「寛解」と「回復」を別のものとして扱っていることです。
寛解とは、主として境界性パーソナリティ症の診断基準を満たさなくなった状態を指します。
一方、この研究でいう「回復」には、症状の改善だけではなく…
✔安定した人間関係があること
✔仕事や学業などの社会的・職業的な役割を安定して担えていること
…なども含まれていました。
つまり、症状だけではなく「生活全体がどの程度安定しているのか」まで評価していたのです。
そのため、回復を経験した人の割合は、症状寛解より低くなっています。
境界性パーソナリティ症群では…
2年以上の回復:60%
4年以上の回復:54%
6年以上の回復:44%
8年以上の回復:40%
…というものでした。
ここに、境界性パーソナリティ症からの回復を考えるうえで、とても重要なポイントがあります。
症状が改善することと、生活全体が回復することは同じではないのです。
6.症状が良くなった後にも「生活を取り戻す」という課題が
例えば…
✔以前ほど激しく感情が揺れなくなった。
✔衝動的な行動が減った。
✔見捨てられることへの強い不安も、以前より扱いやすくなった。
こうした変化は、とても大切な回復です。
しかし、それまで長期間仕事を休んでいたり、人との関係を避けて生活していたりすれば、症状が改善したからといって、仕事や人間関係まで直ちに安定するとは限りません。
長期間社会から離れていれば、仕事に戻ることにも準備が必要です。
人間関係の中で何度も傷ついてきたのであれば、人を信頼したり、適切な距離を取ったりすることを改めて学んでいく必要があるかもしれません。
だからこそ、境界性パーソナリティ症への心理的支援では、「症状を減らすこと」だけではなく、「どのような生活を送りたいのか」まで一緒に考えることが重要になります。
それは、安定して働けるようになることかもしれません。
安心できる人間関係を作ることかもしれません。
自分の気持ちを相手に伝えられるようになることかもしれません。
あるいは、一人でいる時間にも不安に飲み込まれず、自分の時間を過ごせるようになることかもしれません。
この研究でも、症状の寛解に比べると、仕事や人間関係まで含めた持続的な回復には、より時間がかかることが示されています。
そのため、心理的支援のゴールを「症状をなくすこと」だけに置かないことが大切です。
7.「回復率40%」を必要以上に悲観する必要はない
8年間続く回復を経験した人が40%だったと聞くと、「では60%の人は回復できなかったのか」と感じるかもしれません。
しかし、この数字には注意が必要です。
今回の研究でいう「回復」は、単に本人が「以前より生きやすくなった」と感じているかどうかを調べたものではありません。
症状が寛解しているだけではなく、仕事や学業、人間関係についても一定の基準を満たすことが求められていました。
つまり、かなり厳格な研究上の定義です。
例えば、症状は大きく改善し、以前より満足できる生活を送っていても、フルタイムの仕事や学業に安定して参加していなければ、この研究上の「回復」には該当しない可能性があります。
そのため、「研究上の回復に該当しなかった=改善していない」という意味ではありません。
研究で使われる「Recovery」という言葉と、一人ひとりが考える「自分の人生が良くなった」という意味での回復は、必ずしも同じではないのです。
8.境界性パーソナリティ症からの回復は「別人になること」ではない
境界性パーソナリティ症から回復するために、「自分の性格を変えなければいけない」と考える必要はありません。
✔感情が豊かなこと。
✔人とのつながりを大切にすること。
✔人からの反応に敏感であること。
そうした特徴そのものを、すべてなくす必要があるわけではありません。
大切なのは、強い感情が生じたときに、その感情にすべてを支配されるのではなく、自分で行動を選べること。
人間関係の中で不安が生じたときにも、関係を壊したり、自分を傷つけたりする以外の方法を選べること。
そして少しずつ、自分が大切にしたい生活を作っていくことです。
症状が落ち着いてくると、次に大切になる問いがあります。
「これから、私はどのような生活を送りたいのだろうか?」
これは、症状を治すこととは少し違う問いです。
しかし、長期的な回復を考えるうえでは、とても重要な問いだと私は考えています。
9.境界性パーソナリティ症の回復で大切なのは「症状の先」を考えること
16年間の追跡研究から分かる大きなことは、境界性パーソナリティ症の症状は、決して固定されたものではないということです。
多くの人が診断基準を満たさない状態まで改善し、その状態を長期間維持していました。
その意味では、「一生このままかもしれない」と将来を決めてしまう必要はありません。
ただし、症状が改善することと、仕事、人間関係、社会とのつながりなどを含めて生活を立て直していくことには、少し違った課題があります。
だからこそ心理的支援では、「どうすれば症状を減らせるか」だけではなく、「症状が少し落ち着いた先で、どのような毎日を送りたいのか」まで考えることが重要です。
回復とは、一気に違う人になることではありません。
✔感情に振り回される時間が少し減る。
✔不安があっても関係を壊さずにいられる。
✔困ったときに人へ助けを求められる。
✔仕事や趣味など、自分にとって大切な活動に少しずつ戻っていく。
そうした変化を積み重ねながら、自分なりの生活を作っていくことも、境界性パーソナリティ症からの大切な回復なのだと思います。
よくある質問
Q1.境界性パーソナリティ症は一生治らないのでしょうか?
そのように考える必要はありません。
今回の16年間の追跡研究では、追跡期間中に99%が2年以上、78%が8年以上続く症状寛解を経験していました。
境界性パーソナリティ症の症状は固定されたものではなく、長期的に大きく改善する人が多いことが示されています。
ただし、99%という数字は「16年後に99%の人が寛解していた」という意味ではなく、16年間のどこかで2年以上続く寛解を経験した人の割合です。
Q2.症状が一度良くなっても、また元に戻ってしまいませんか?
再び症状が強くなる人もいますが、必ずそうなるわけではありません。
今回の研究では、2年間寛解した人のうち36%がその後再び診断基準を満たしましたが、8年間寛解が続いた人では10%でした。
良い状態が長期間続くほど、その後再び大きく悪化する割合は低くなる傾向が示されています。
Q3.症状は良くなってきましたが、人間関係や仕事はまだうまくいきません。回復していないのでしょうか?
症状の改善と、仕事や人間関係など生活上の機能が回復する時期には、ずれが生じることがあります。
今回の研究でも、症状の寛解は非常に多くみられた一方で、仕事や社会生活まで含めた回復には、より時間がかかることが示されました。
症状が改善しているのであれば、それ自体が大切な回復の一部です。
Q4.仕事ができていなければ「回復」とはいえないのでしょうか?
そのように考える必要はありません。
この研究では、研究上の基準として、症状の寛解に加えて良好な社会機能や職業機能を「回復」の条件にしていました。
しかし、それは研究結果を比較するために設定された基準です。
一人ひとりが目指す回復は、その人の状態、生活環境、価値観によって異なります。
Q5.心理カウンセリングでは、何を目標にすればよいのでしょうか?
まずは、現在困っている感情や行動、人間関係上の問題などを扱うことが一つの目標になります。
そのうえで、症状が少し落ち着いてきたら…
✔「どのような人間関係を築きたいのか」
✔「どのような毎日を送りたいのか」
✔「何を大切にして生きていきたいのか」
…といったことも一緒に考えていきます。
今回の研究が示しているように、境界性パーソナリティ症の支援では、症状の寛解と、その先にある生活の回復を分けて考えることが重要です。
参考文献
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こころのケア心理カウンセリングRoom
兵庫県芦屋市浜芦屋町1-27 サニーコート浜芦屋302号
電話番号 : 090-5978-1871
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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