双極症はどのように進行するのか~ステージ分類から考える早期支援~
2026/06/23
みなさん、こんにちは。
神戸や芦屋、西宮などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
双極症は、躁状態や軽躁状態、うつ状態といった症状だけを見ればよい病気ではありません。
同じ双極症という診断であっても、初めて気分のエピソードを経験した方と、再発を繰り返している方、症状が長期化して仕事や生活への影響が続いている方では、必要な支援が異なってきます。
そのため、双極症がいま、どの段階にあるか、つまりステージングがどうなっているかが重要となります。
結論から申しますと、双極症のステージングとは現在の症状だけでなく、これまでの経過、再発回数、症状がない時期の生活機能、認知機能、対人関係、仕事への影響などを含めて、その人が病気のどの段階にいるのかを理解する考え方です。
ただし、ステージが進んだから回復できないという意味ではありません。
また、すべての人が同じ順序で進行するわけでもありません。
ステージングは双極症の将来を決めつけるためではなく、その時点で必要な治療や支援を考えるための地図として使うものです。
そこで今回は、双極症のステージングについてシェアしたいと思います。
※本投稿は公認心理師としての一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の方の診断・治療を行うものでも効果を保証するものでもありません。
※気になる症状がある場合は、必ず医療機関等の専門機関にご相談ください。
1.双極症を「病気の段階」から理解する

双極症では、現在の躁症状やうつ症状だけでなく、これまでの経過や生活への影響も含めて考えることが大切です。
ここでは、双極症のステージングという考え方から、病期に応じた治療と支援について解説したいと思います。
1-1.この論文は何を扱っているのか
またまた恒例ですが、軽く参照にしている論文紹介から…
今回取り上げるのは、Dell’Ossoらによる2024年のレビュー論文「Bipolar disorder staging and the impact it has on its management: an update」です。
この論文では、双極症の長期的な経過、神経生物学的な変化、生活機能の低下、治療反応などを整理し、双極症を病期ごとに捉えるステージングモデルの臨床的な意義を検討しています。
従来の双極症治療では、現在の躁症状やうつ症状を改善し、次の再発を防ぐことが中心でした。
しかし、症状が落ち着いたあとも、以前のように仕事ができない、集中力や記憶力が戻らない、人間関係への不安が続く、生活リズムが安定しないといった困りごとが残ることがあります。
また、再発を恐れて行動を制限したり、反対に調子がよくなると再び無理をしてしまったりする場合もあります。
そのため、双極症では、症状の有無だけでなく、病気の経過と生活機能の両方を見る必要があるため、ステージングの視点は非常に有用です。
1-2.ステージングとは何か
ステージングとは、病気が現在どの段階にあるのかを整理する方法です。
身体疾患では、病気の進行度によって治療を変える考え方が一般的です。
双極症でも、発症前のリスク段階、初回エピソード、再発期、症状や機能低下が長期化した段階では、治療や支援の目標が異なると考えられています。
双極症のステージングでは、家族歴や発症リスク、最初に現れた症状、躁・軽躁・うつのエピソード数、再発頻度、症状がない時期の回復度などを確認します。
さらに、仕事、学業、家事、対人関係への影響、認知機能、身体疾患や依存症などの併存、これまでの治療反応も含めて考えます。
つまり、ステージは単なる症状の強さではなく、これまでの経過と、現在どの程度生活を維持できているかを表す概念です。
1-3.ステージと重症度は同じではない
ステージングを理解するには、病期と重症度を分けて考えることが大切です。
重症度は、現在の症状がどの程度強いかを表します。
一方、ステージは、病気がこれまでどのような経過をたどり、生活機能にどの程度影響しているかを表します。
例えば、初回の躁状態が非常に強くても、適切な治療によって速やかに回復し、その後の生活機能が保たれる場合があります。
反対に、現在の気分症状はそれほど強くなくても、再発を繰り返し、仕事や人間関係、認知機能への影響が長く残っていることがあります。
そのため、「元気そうだから問題はない」「症状が軽いから初期段階だ」と単純に判断することは妥当ではありません。
1-4.双極症の代表的なステージ
双極症には複数のステージングモデルがあり、分類方法はまだ統一されていません。
そこで、ここでは研究で用いられている代表的な考え方を紹介します。
ステージ0:発症リスクはあるが症状はない段階
ステージ0は、双極症の家族歴などから発症リスクが高いと考えられるものの、明らかな精神症状は現れていない段階です。
この段階でご本人を患者として扱う必要はありません。
大切なのは、過度に不安をあおらず、睡眠不足、生活リズムの乱れ、アルコールや薬物、強いストレスなど、発症や気分変動に関係しやすい要因について正しい知識を持つことです。
また当然ですが、家族歴があっても必ず双極症を発症するわけでは決してありません。
ステージ1:うつ症状などが現れる段階
ステージ1では、不眠、気分の変動、焦り、過敏さ、不安、抑うつなどが見られることがあります。
ただし、これらは双極症だけに見られる症状ではありません。
うつ病、不安症、発達特性、ストレス反応、身体疾患などでも起こるため、早期発見と同時に、安易に双極症と決めつけない慎重さも必要です。
特に、うつ状態が先に現れ、その後に軽躁状態や躁状態が確認されるケースがあります。
そのため、過去に睡眠時間が短いのに元気だった時期、活動性が急に高まった時期、話す量や考える速さが増えた時期、買い物や予定が増えた時期がなかったかを、長期的に振り返ることが重要です。
ステージ2:初めて双極症と診断される段階
ステージ2は、初めて躁状態または軽躁状態が確認され、双極症の診断基準を満たす段階です。
この時期には、症状を落ち着かせるだけでなく、本人と家族が双極症について理解し、服薬の目的を知ることが重要です。
あわせて、睡眠と生活リズムを整え、再発の初期サインを確認します。
また、軽躁状態を「本来の調子のよさ」と誤認せず、仕事や予定を急に元の量へ戻さないことも大切です。
初回エピソードのあとには、「もう治った」「薬は必要ない」と感じることがあります。
しかし、双極症では再発予防が重要です。
調子が戻った時期にこそ、発症前にどのような変化が起きていたのかを整理し、今後の対策を作っておく必要があります。
ステージ3:気分エピソードを繰り返す段階
ステージ3では、躁、軽躁、うつ、混合的なエピソードなどを繰り返します。
エピソードの間に十分な回復が得られる人もいますが、症状が落ち着いたあとも、仕事、認知機能、対人関係などに困りごとが残る場合があります。
この段階では、薬を続けることに加えて、再発の背景を詳しく検討する必要があります。
具体的には、服薬が不規則になっていなかったか、睡眠時間が短くなっていなかったか、仕事や予定を詰めすぎていなかったかを確認します。
またアルコールやカフェイン、季節の変化、職場や人間関係のストレス、小さな気分変動を見逃していなかったかも重要です。
加えて、再発を再発に至った流れを整理し、次の予防に生かすことが大切です。
ステージ4:症状や機能低下が長期化する段階
ステージ4は、気分症状が慢性化したり、短期間に再発を繰り返したりして、症状と生活機能の十分な回復が得られにくい段階です。
この段階では、症状を完全になくすことだけを目標にすると、ご本人の負担が大きくなる場合があります。
そのため、医療、心理支援、福祉、家族支援、就労支援などを組み合わせ、生活リズムを安定させる、危機的な悪化を減らす、再発時に早く治療につながるといった現実的な目標が重要となります。
また、無理のない仕事や活動を続けること、認知機能への負担を調整すること、孤立を防ぎ、身体の健康や本人が大切にしたい生活を守ることも重要です。
ステージ4は、「もう回復しない」という意味では決してありません。
進行したステージであっても、適切な支援によって症状や生活機能が改善する可能性は十分にあります。
1-5.ステージが進むと脳の機能が低下するのか?
双極症のステージングでは、「神経進行」という考え方が取り上げられます。
神経進行とは、再発や慢性的なストレスなどに伴って、脳機能、認知機能、身体の状態、社会生活への影響が変化する可能性を示す概念です。
ただし、「再発するたびに脳が必ず脳の機能が低下する」という意味ではありませんし、回復が期待できないという意味でもありません。
双極症の経過には大きな個人差があります。
再発を経験しても高い生活機能を維持する方もいれば、エピソードが少なくても生活上の影響が残る方もいます。
そのため、現在の脳画像や生物学的指標だけで、個人のステージや将来を正確に判断することもできません。
神経進行は、早期治療や再発予防を重視する根拠の一つです。
そのため、将来を悲観的に決めつけるための考え方では決してありません。
1-6.早期発見と早期支援が重要な理由
ステージングの目的は、病気が長期化してから対応するのではなく、早い段階から適切な支援を行うことです。
特に初回エピソードの前後では、診断の遅れ、睡眠の乱れ、服薬の中断、生活上の過負荷などを減らすことが重要です。
早期に支援を受けることで、気分エピソードを短くし、再発の初期サインに気づきやすくなる可能性が期待できます。
また、入院や生活上の大きな損失を防ぎ、仕事や学業、家族関係への影響を小さくすることにもつながります。
ただし、発症リスクがある人にすぐ診断名をつけたり、必要性が明確でない治療を一律に行ったりすることが早期支援ではありません。
本人の状態を丁寧に観察し、支援による利益と不利益の両方を慎重に考える必要があります。
1-7.病期によって治療の重点は変わる
ステージングでは、全員に同じ治療を行うのではなく、病期に応じて重点を変えます。
初期段階では、正確な診断、睡眠と生活リズムの調整、心理教育、家族への情報提供が中心になります。
初回エピソード後は、治療の継続、再発サインの把握、仕事や活動の段階的な回復が重要です。
再発を繰り返す段階では、服薬、睡眠、ストレス、対人関係、認知機能、身体疾患など、再発に関係する複数の要因を見直します。
また症状や機能低下が長期化した段階では、医療だけでなく、心理支援、生活支援、就労支援などを組み合わせる必要があります。
ただし、ステージだけで薬物療法や心理的支援が決まるわけではありません。
双極Ⅰ型かⅡ型か、現在の気分状態、過去の治療反応、副作用、併存症などを医師が総合的に判断することが重要です
1-8.症状の回復と生活の回復は同じではない
双極症では、躁状態やうつ状態が落ち着いても、以前の生活にすぐ戻れないことがあります。
集中力が戻らない、疲れやすい、判断に時間がかかる、対人関係への自信が持てない、仕事をすると再発しそうで怖いと感じることがあります。
これは、必ずしも治療がうまくいっていないという意味ではありません。
というのは、気分症状と、認知機能や社会生活は、異なるペースで回復することがあるからです。
そのため、復職や復学では、気分がよくなったかだけでなく、一定時間集中できるか、翌日に疲労を持ち越さないか、予定を詰めすぎていないか、睡眠が安定しているかを確認する必要があります。
1-9.セルフケアで大切にしたいこと
双極症のセルフケアでは、気分が悪いときだけでなく、調子がよいときの変化にも注意することが非常に大切です。
具体的には、睡眠時間が短くても平気になる、予定や連絡が急に増える、買い物や投資への関心が強くなる、次々と新しい計画を立てるといった変化は、軽躁や躁の初期サインである可能性があります。
また周囲の忠告を煩わしく感じたり、普段より自信が強くなったりする場合もあります。
ご本人には「調子が戻った」と感じられるため、活動を止めることが難しいことがあります。
そのため日頃から、睡眠時間、気分、活動量、服薬、ストレスを簡単に記録しておくと、変化に気づきやすくなります。
また、調子のよい日に一気に活動せず、一定のペースを守ることも重要です。
まとめ
双極症のステージングとは、発症リスク、初回エピソード、再発、症状や生活機能の長期化など、病気の経過を段階的に理解する考え方です。
ステージは、病気のランクや回復可能性の順位ではありません。
その目的は、早期発見、再発予防、治療の個別化、生活機能の回復にあります。
初期段階では診断と心理教育、初回エピソード後は治療継続と再発予防、再発期では再発要因の見直し、長期化した段階では多職種による生活全体の支援が重要になります。
双極症では、症状が落ち着くことと、生活が回復することは同じではありません。
気分だけでなく、睡眠、認知機能、仕事、対人関係、身体の健康を含めて支援することが、安定した生活につながります。
よくある質問
Q1. 双極症のステージが高いと、重症という意味ですか?
必ずしも同じではありません。
重症度は現在の症状の強さを表しますが、ステージは再発回数、これまでの経過、症状がない時期の生活機能などを含めて考えるものです。
Q2. 双極症は必ずステージが進行しますか?
必ず進行するわけではありません。
双極症の経過には大きな個人差があります。
早期に適切な治療を受け、睡眠や生活リズムを整え、再発予防に取り組むことで、長期的に安定して生活できる人もいます。
Q3. 再発するたびに脳の機能が低下するのでしょうか?
再発するたびに必ず脳の機能が低下すると断定することはできません。
再発回数と認知機能や生活機能の低下との関連は研究されていますが、個人差が大きく、因果関係も単純ではありません。
Q4. 自分がどのステージにいるか判断できますか?
自己判断だけで正確に分類することは困難です。
過去のエピソード、家族歴、治療歴、再発回数、生活機能など、多くの情報を確認する必要があります。
ステージングモデルも複数あるため、主治医とこれまでの経過を整理することが大切です。
Q5. ステージによって薬は変わりますか?
ステージは治療を考える材料の一つですが、ステージだけで薬が決まるわけではありません。
現在の気分状態、双極Ⅰ型・Ⅱ型の違い、過去の治療効果、副作用、身体疾患などを医師が総合的に判断されます。
そのため、薬を自己判断で中止したり変更したりしないことが重要です。
参考文献
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こころのケア心理カウンセリングRoom
兵庫県芦屋市浜芦屋町1-27 サニーコート浜芦屋302号
電話番号 : 090-5978-1871
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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